理科大ら,火災現場でテラヘルツ波により視界確保

東京理科大学は,日本電信電話(NTT)と共同で,煙霧環境での視認性確保を可能とするテラヘルツ波照明器の基本構成技術を開発し,見通しが全く利かない模擬火災環境でも,試作した原理検証用のアレイ型照明器で照らすアクティブイメージングにより1.4m先にある被写体のテラヘルツ像が取得できることを実証した(ニュースリリース)。

火災時,特に初期段階では大量の煙が発生し,救助・検索活動や消火活動をする上で大きな障壁となっていた。テラヘルツ波は周波数軸上で電波と光の間に位置し,赤外線や可視光に比べると波長が長いため,塵や煙,炎の中を伝播しても,散乱されて減衰することが殆どない。また電波に比べて四方に広がりにくいので,物の形状を調べるために使うことができる。

これまでテラヘルツ波を用いたイメージングでは,被写体からの熱放射を計測するパッシブイメージングが先行していた。しかしながら,火災現場では被写体の周辺にある高温の物質や高い温度の煙が熱輻射源となってしまうため,観測者が自らテラヘルツ波を放射し,物体で反射して戻ってくる波から煙の中やその向こうを見通すアクティブイメージングの技術が必要となる。

東京理科大学とNTTでは,2012年より煙霧環境での視界確保を可能とするテラヘルツ波アクティブイメージングを実現するためのテラヘルツ波照明器の研究を進めてきており,その基本構成技術を開発した。

この技術の中核は,燃焼により生成するガスによる吸収の影響が避けられる波長360ミクロンのテラヘルツ波の位相を意図的に乱し,複数配置した素子から発生するテラヘルツ波を束ね,その強度を高めるところにある。これによりテラヘルツ波をカメラにおけるフラッシュ光のように利用することが可能になった。

原理検証用に試作した9個の素子から成るアレイ型照明器を用いたアクティブイメージングの能力を,火災を模擬した空間で評価し,煙霧により全く見通しが利かない状態で,1.4m先にある被写体のテラヘルツ像の取得に成功した。

研究グループは建築火災安全工学の観点から,今回開発したテラヘルツ波照明器の性能を見極め,見通せる距離の延伸,システムの小型化などの研究開発に引き続き取り組んでいくとしている。

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