理研ら,フラーレンの生成熱を高精度予測

理化学研究所(理研),シドニー大学の国際共同研究グループは,スーパーコンピュータ「京」を利用した高精度電子状態計算により,C60フラーレン分子と高次フラーレン分子の生成熱を世界最高の精度で理論予測した(ニュースリリース)。

C60フラーレン分子は1985年に発見されて以来,ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の特効薬,化粧品,半導体材料など,さまざまな分野への応用が進められている。そのため,実験・理論の両面からの研究が盛んに行なわれている。

どのように炭素原子同士が結合し,その結合がどの程度安定であるかといった基本的な物性の指標は「生成熱」と呼ばれる。しかしこれまで,実験もシミュレーションも難しいため,フラーレン分子の生成熱の正確な値は分かっていなかった。

研究グループは,「京」に理研が開発した分子科学計算ソフトウェア「NTChem」を用いて,C60フラーレン分子と炭素の原子数がもっと多い高次フラーレン分子(C70,C76,C78,C84,C90,C96,C180,C240とC320)の合計10種類の大規模分子系の生成熱を,高精度電子状態計算で算出することに成功した。また「より大きなフラーレン分子の生成熱を算出する一般的な計算式」を導き出した。

さらに,炭素原子だけで構成されている同素体のグラフェンとフラーレン分子の物性が大きく異なる原因を推定した。さらに,フラーレン分子を大きくすることによる物性の変化を実験に先んじて理論予測することに成功し,新材料として利用するための計算基盤を作った。

フラーレン分子の応用研究の1つに,C60の中にアルカリ金属を挿入すると超電導を示すというものがある。そのため,フラーレン中心の空洞サイズを変える高次フラーレンの研究も盛んに行なわれている。今回の成果は,こうした研究に大きな知見を与えるしている。

この研究を発展させることにより,これまで難しかったC60フラーレンや高次フラーレンなどの大きな分子の電子物性や化学反応の理論計算による予測がより正確になる。また,実験では合成や観測が難しいフラーレン分子の性質を,実験に先んじて理論で明らかにすることで,新しい材料設計の指針を計算科学の立場から立てることが期待できるとしている。

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