東京大学は,アルマ望遠鏡を使って,人類史上最も暗いミリ波天体の検出に成功した(ニュースリリース)。そして,これらの天体から放射される赤外線が,これまで謎だった宇宙赤外線背景放射の起源であることを突き止めた。
宇宙からは,どの方向からも一様な弱い光(電磁波)が届いており,これを宇宙背景放射と呼ぶ。宇宙背景放射には可視光(COB),マイクロ波(CMB),赤外線(CIB)の主要な3つの成分がある。このうちCOBに関しては,宇宙に存在する銀河中の星が起源であることがわかっている。またCMBは,ビックバン直後の宇宙の熱いガスが放った光だとわかっている。
一方CIBについてはこれまでのところ正体がわかっておらず,様々な観測で調べられてきた。特に,最高感度と高い空間分解能を誇るアルマ望遠鏡を用いた観測でもCIBが調べられてきたが,アルマ望遠鏡による個々の観測では感度や観測範囲に限界があり,その起源の約半分は明らかになっていなかった。
こうした未知のCIB起源を解明するために,研究チームは公開されている約900日間に及ぶアルマ望遠鏡観測データをくまなく調べた。更に背景天体が重力レンズ効果で増光されることを利用して,これまで検出することができなかった,より暗い天体を網羅する探査を行なった。
その結果,研究チームは133個の暗い天体を発見した。その中には,これまで発見されていたものよりも最大で5倍も暗い天体が含まれている。その明るさと数を足し合わせるとCIBのほぼ全てに相当することが分かった。
更に研究チームは,ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡の観測データと照らし合わせ,アルマで見つかった暗い天体(以下「暗いアルマ天体」と呼ぶ)の正体に迫った。その結果,約60%の「暗いアルマ天体」は、これまでの光赤外線観測で捉えられていた遠方銀河であることもわかった。
一方で,60%の暗いアルマ天体の正体はわかったが,残りの40%の天体の正体はまだ分かっていない。しかし,これらはおそらくは塵に覆われた非常に暗く,質量が小さい銀河ではないかとしている。そうすると,質量の小さい銀河に多くの塵が含まれていることになるが,これまでの研究で知られている銀河は,質量が小さいと塵も少ない。
つまり,これら40%の天体は常識的に考えるとおかしく,今回の観測は,これまでの常識に合わない銀河が遠方の宇宙にたくさんある可能性を示唆している可能性があるという。研究チームは今後,アルマ望遠鏡を用いた詳細観測によって,こうした暗いアルマ天体の正体を明らかにしていきたいとしている。
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