北大ら,三次元X線顕微鏡で骨溶解メカニズムを発見

ラトックシステムエンジニアリング,北海道大学,東北大学,慶應義塾大学らの研究グループは,開発した高感度三次元X線顕微鏡を活用し,新たな骨カルシウム溶解メカニズムを発見した(ニュースリリース)。

骨細胞は長さ約20μmの卵形をした細胞で,骨内で骨細管と呼ばれる数十本もの微細なトンネルをあらゆる方向に延ばして毛細血管,骨髄,骨表面ともつながり,骨折やひび割れなどの異常が起きると,骨細胞が破骨細胞という骨を食べる細胞を動かして,異常が生じた部位を削る。続いて,骨を修復する役目を担う骨芽細胞が活動してその部位を元に戻していく。

一方で,破骨細胞は,血液中のカルシウム濃度が低下した際に濃度を一定に保つため,骨表面を溶かし,血液中にカルシウムを供給する役割も担っていると言われてきた。しかし,破骨細胞が存在しないマウスを人工的に作成しても,そのマウスは生存し得ることが分かっており,破骨細胞の働き以外にカルシウム濃度維持を担う仕組みの存在が示唆されていた。

マウスの脛骨を直径0.3mmの棒状に加工し,X線顕微鏡観察に有効な大型放射光施設SPring-8において,開発した高感度三次元X線顕微鏡で観察を実施した。この顕微鏡は,微細なすだれ格子を2枚用いるタルボ干渉計と呼ばれる仕組みが使われており,X線の屈折を検出して画像を作り,骨組織の微妙な密度変化を三次元的に可視化することができる。

この画像解析の結果,骨細胞から延びる骨細管の周りで,骨細管の直径(0.1~0.4μm)に比べて10~30倍の大きな範囲で骨のカルシウムが減少する様子を捉えた。骨細管に平行な断面を見ると,骨細管に沿ってカルシウム濃度が低下していた。骨細管に直交する断面ではほとんどの骨細管の周りで,骨細管に近いほどカルシウムが多く減少していることを確認した。

骨細胞は,毛細血管,骨表面と無数の骨細管を経由してつながっており,骨細管周囲で溶解されたカルシウムは毛細血管へ流れ出す。一方,血液中のカルシウムは骨細管をつたって,骨内に広がると考えられる。低カルシウムエリアができた後,骨内に広がったカルシウムは時間をかけて骨に蓄えられ,カルシウム濃度の回復が行なわれるものと考えられるという。

条件の異なる複数のマウス骨試料を撮影した結果,骨細胞と骨細管のネットワークによるカルシウム溶解,蓄積作用は,骨形状の破壊を伴わないと考えられる結果を得た。

多くの骨減少症治療薬は破骨細胞の骨破壊作用を抑える働きをしている。しかし,骨が生まれ変わる作用が抑制されると古い骨が残ってしまうため,骨をもろくしてしまうという副作用があった。今回の成果によって,破骨細胞による骨破壊を伴う作用と,骨細胞による骨破壊を伴わない作用の両者をコントロールすることで,副作用を伴わない治療方法の開発が期待できるとしている。

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