東北大,磁石の電気的創出に成功

東北大学は,リチウムイオン電池に金属錯体から成る分子性材料を電極として組み込むことで,人工的にイオン制御可能な磁石を創り出すことに成功した(ニュースリリース)。

これまで不可能だった“磁石でない物質を磁石に変換する” ことが電気的に出来れば,人工格子をもつ新たな磁性材料の開発だけでなく,放電寿命に応じて磁石の性質を発現するようになる磁石変換可能な電池や,新しい電気制御型磁気スイッ チの創製が可能になる。

研究グループは,常磁性である水車型ルテニウム二核(II,II)金属錯体が非磁性のテトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体で架橋された中性の層状化合物(最近は,このような分子性の格子を金属—有機物骨格体 (metal-organic framework)と呼ぶ)を設計し,これをリチウムイオン電池の正極として組み込んで放電させることで,人工的に磁石を創り出せることを提案した。

リチウムイオン電池では,放電時に正極にリチウムイオンと電子が同時に導入されるが,上記の中性層状化合物の場合,電子は電子受容性を持つ非磁性のTCNQ誘導体へ選択的に注入され,磁気モーメントが発生する。

このリチウムイオン電池による電子注入に伴う架橋分子への磁気モーメントの付与を通して,常磁性分子の水車型ルテニウム二核(II,II)金属錯体の磁気モーメントとの間に磁気的な相互作用を発生させ,放電前に常磁性であった化合物を磁石に変えることに成功した。

さらに,化合物が磁石となる磁気相転移温度は,放電電位に応じて変化することを見出した。この変化は,化合物に注入される電子量に応じて,磁気モーメントを持つTCNQ誘導体の数が増減することに対応づけられると考えられるという。

常磁性分子を非磁性分子が架橋した化合物において,電子注入により人工的に磁気相互作用の経路を構築する手法は,この研究で扱った化合物に限らず,より広い物質群に対して適用可能であり,新しい分子磁石の設計・構築法として有用であるとしている。

また,電気によって磁気的性質を制御する手法は,従来のエレクトロニクス技術との親和性が高い為,電気的に制御可能な新しい磁気デバイス等の開発につながることが期待される。

今後は,分子の電子状態・結晶構造の次元性に着目した高い磁気相転移温度を有する分子磁石の設計・探索,並びに,リチウムイオン電池の可逆的な充放電機能を利用した磁気スイッチングデバイスの開発を進めていくとしている。

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