東北大ら,光技術で地球内核の組成を制約

東北大学,兵庫県立大学,高輝度光科学研究センター,理化学研究所らの研究グループは,地球の内核に含まれる軽元素として水素・珪素・硫黄がその有力な候補であることを突き止めた(ニュースリリース)。

弾性波である地震波の観測によって,地球内部が層構造を持つことは既によく知られているが,地球の最深部である内核の化学組成は不明となっている。様々な研究により,地球の内核は鉄を主成分としたニッケルとの合金であり,それに加えて密度を下げるための水素・炭素・酸素・珪素・硫黄といった軽い元素が含まれていると考えられている。

弾性波には縦波と横波があるが,研究では縦波速度に着目し,地球内部と同じ環境下,すなわち超高圧高温状態を作り出した中に純鉄をおき,実験的に密度と縦波弾性波速度を同時に測定し,地震波観測によって得られている内核の密度・弾性波速度と比較することで,手元に取り出せない地球の内核の化学組成の推定を行なった。

研究グループでは,地球上で最も硬いダイアモンドをピストンとして利用して,ダイアモンドの先端にある非常に小さな空間に地球内部と同じ超高圧を発生させた。そして,その超高圧下に置かれた純鉄をレーザーで加熱して超高温状態にすることに成功した。この方法で達成した圧力温度条件は163万気圧・2727℃。また,X線は厚さの薄い鉄であれば透過することが可能であり,散乱されたX線を調べることで物質の状態を知ることもできる。

研究グループは大型放射光施設SPring-8においてX線を活用した実験に取り組んだ。実験は,X線回折(実験試料で散乱されたX線の角度から原子の距離を決める手法)とX線非弾性散乱(入射するX線と散乱されたX線のエネルギー差の測定により弾性波を測定する手法)の2つの測定技術を組み合わせることで行なわれ,その結果世界最高の圧力と温度条件下における純鉄の縦波速度と密度を同時に決定することに成功した。

実験で得られた結果を地震波観測データと直接比較すると,密度だけではなく地球内核条件での鉄の縦波速度も,実際の地球内核より高い値を示すことが明らかになった。つまり,内核中に含まれている鉄以外の元素は,鉄の縦波速度と密度を共に減少させなければならない。これは地球内核の組成に制約を与える上で極めて重要な研究成果。地球化学的な知見と組み合わせることで,地球内核に含まれる軽元素としては,水素・珪素・硫黄である可能性が高いことを突き止めた。

今回,地球の内核を構成する化学組成の推定に必要な構成元素の候補を絞り込むことができた。構成元素が変われば,実測で得られた研究結果の解釈も再考が必要となる。地球の内核を理解することは地球の成り立ちを考える上で欠かせない。

研究では,弾性波が測定可能な実験条件を大きく拡大することができ,世界最高の圧力と温度条件下での測定に成功したが,達成された圧力・温度は地球内核の条件には達していない。内核の組成決定を行なうためには更なる研究が必要であり,目的を達成するためには更にSPring-8での実験を進める必要があるとしている。

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