理化学研究所(理研)と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループは,有機物質の強誘電体において,水素原子と同程度の有効質量を持つ強誘電ドメイン壁を見いだした(ニュースリリース)。
強誘電体中における強誘電ドメイン壁は,一般に電界を印加することによって動くが,その過程では熱エネルギーによって活性化された揺らぎ(熱揺らぎ)が主要な役割を果たしている。
そのため,熱揺らぎが失われる低温では,電界の印加によって強誘電ドメイン壁を動かすことは難しい。ただ,揺らぎには熱揺らぎのほかに,量子力学的な原理によって起こる量子揺らぎが存在し,後者は低温でも抑制されない。
熱揺らぎが失われる極低温環境下において,大きな量子揺らぎが存在した場合,強誘電ドメイン壁が電界下でどのような挙動を示すかは,まだ解明されていなかった。
研究グループは,有機強誘電体に加える圧力を制御することで,極低温下であっても大きな量子揺らぎが存在する状態を作り出した。その結果,比較的小さい電界の印加によって強誘電ドメイン壁を動かせることを見いだした。
さらに,量子揺らぎの下で動かした強誘電ドメイン壁の運動を解析し,強誘電ドメイン壁の有効質量を算出したところ,重い有機分子で構成されているにもかかわらず,あたかも水素原子と同程度の軽さを持つような振る舞いが示された。
今回の発見は,量子揺らぎが強誘電体ドメイン壁の運動に与える特異な一面を捉えたものであり,強誘電体における量子効果の理解を深めると期待できるとしている。
関連記事「東大,強誘電体薄膜における「負の誘電率」発現を証明」「産総研ら, 有機強誘電体メモリーの印刷製造技術を開発」「東北大ら,強誘電体の極薄単結晶膜の作製に成功」