東工大,鉛フリー圧電体の開発に新しい一歩

東京工業大学は,環境に有害な鉛を含まず、巨大な正方晶歪みを有した新しい極性酸化物、「亜鉛酸バナジウム酸ビスマス」を合成することに成功した(ニュースリリース)。有害な鉛を廃した新しい圧電体の開発につながると期待される。

電気と運動を変換する圧電体は,センサーやアクチュエーターとして様々な電子機器で使われている。現在の主流はPZTと呼ばれる,チタン酸鉛とジルコン酸鉛の固溶体材料だが,毒性元素である鉛を重量で68%も含むため,代替物質の開発が望まれている。

圧電体は,正の電荷を持つ陽イオンと負の電荷を持つ陰イオンの重心が一致しない,「極性」と呼ばれる結晶構造を持つ。鉛は結晶構造を歪ませる作用があるため,鉛を含む化合物ではこの正電荷と負電荷の不一致(自発分極)が増大される。

PZTの優れた圧電特性は,縦方向に分極を持つ正方晶ペロブスカイトのチタン酸鉛と,斜め方向に分極を持つ菱面体晶ペロブスカイトのジルコン酸鉛との相境界で発現することが知られている。鉛を含まない代替の圧電材料を開発するためには,正方晶または菱面体晶ペロブスカイト構造をもつ新しい極性酸化物を見つけ出す必要がある。

非鉛の正方晶ペロブスカイト構造をもつ材料として,亜鉛酸チタン酸ビスマスが知られている。一方,バナジウム酸鉛は,チタン酸鉛と同じ正方晶ペロブスカイト構造をもつことが知られていることから,研究グループはバナジウムにはチタンと同様に,極性の構造を安定化させる効果があると考え,亜鉛酸バナジウム酸ビスマスを合成した。

電子線回折と,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL02B2での放射光X線回折を組み合わせた精密構造解析の結果,亜鉛酸バナジウム酸ビスマスが巨大な正方晶歪みを有した極性構造を持つことを確認した。

これまでに報告されている同形物質には,チタン酸鉛,バナジウム酸鉛,コバルト酸ビスマス,亜鉛酸チタン酸ビスマスがあるが,今回発見した亜鉛酸バナジウム酸ビスマスは,これらの中で最も大きな自発分極を持つ。

今回の成果は,巨大な正方晶歪みを有した新しい非鉛の極性酸化物亜鉛酸バナジウム酸ビスマスを合成したこと。今後研究グループは,PZTに倣い,亜鉛酸バナジウム酸ビスマスを端成分とした固溶体を合成することで,有害な鉛を廃した新しい圧電材料の開発が進むと期待している。

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