東北大ら,XFELによる微粒子の体積収縮を発見

東北大学,京都大学,米SLAC国立加速器研究所研究員のグループ等による国際共同研究チームは,米国のX線自由電子レーザー(XFEL)施設LCLSから供給される非常に強力なX線をキセノン原子が集まってできた微小な粒子に照射すると,極めて短い時間では体積が収縮することを発見した(ニュースリリース)。

米国のLCLSや日本SACLAのようなX線自由電子レーザー(XFEL)実験施設の非常に強力な極短X線パルスを用いると,微結晶や結晶化していない試料からでも1発のX線パルスでX線散乱を計測できるため,これまで構造が決定できなかったさまざまな物質や,極めて短時間しか存在できない物質の構造が決定できると期待されている。

しかし,強力X線パルスが試料物質と相互作用すると,多くの電子が放出され,試料はプラズマ化してバラバラに飛び散る。従って,試料が壊れる前にX線散乱を計測して構造を決めなければならない。

そのため,X線パルスが物質と相互作用して引きおこす超高速反応を理解して制御することが,XFELを用いた新規物質構造の決定の重要な課題となっている。研究では,キセノン原子が集まった微粒子を対象として,プラズマ化の初期過程における超高速構造変化を明らかにすることに成功した。

国際共同研究チームは,LCLSにおいて,キセノン微粒子に連続する2つのXFELパルスを照射した。大きさが1㎛程度の微粒子を1番目の10フェムト秒の照射時間のXFELパルスで加熱し,引き続き,時間差を80フェムト秒までの間で調整した2番目のXFELパルスを用いてX線散乱像を取得した。

得られたX線散乱像を解析することで,原子スケールの構造の変化をフェムト秒の時間分解能で観察した。この実験の結果は,強力 X線パルス照射された微粒子は,80フェムト秒以下の非常に短い時間では,体積が収縮することを示唆するものだった。

従来のモデルでは,X線レーザー照射による多量のエネルギー注入により,小さな粒子はプラズマ化して即座に爆発すると考えら れていた。プラズマ化に伴う体積収縮はこれまでに観測されたことが無いだけでなく,理論的にも考慮されていなかった現象。

この体積収縮は,キセノン原子に局在していた電子がXFEL照射によるプラズマ化のために粒子全体に広がることに起因すると考えられるという。

プラズマ化はXFEL照射に伴う物質の状態変化として広く観測される。従って,プラズマ化の初期過程による構造変化を明らかにした今回の研究成果は,X線自由電子レーザー科学,特に強力X線パルスを用いた新規構造解析に向けた研究に対して重要な知見を提供するもの。

強力X線と物質との相互作用に関する問題をひとつひとつ解決していって初めて,XFELを用いてこれまで見えなかった超微細・超高速な現象を見ることも可能になると期待される。

研究は,さらに,XFEL照射で生じるプラズマ状態の研究を通して,惑星核の物理や大強度レーザーを用いる核融合などの高温高密度プラズマ科学にも共通する重要な知見を提供する。XFELによってはじめて可能になる高温高密度プラズマ構造ダイナミクス研究は,今後益々発展するとしている。

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