理研,XFELと顕微鏡を相補利用し生体を高効率観察

理化学研究所(理研)の研究チームは,X線自由電子レーザー(XFEL)を光源とするコヒーレントX線回折イメージング(XFEL-CXDI)法での生体試料観察に,光・電子相関顕微鏡法を相互補完的に利用することで,観察の効率化と信頼度の向上を実現した。さらに,研究チームが提案したイメージング法により,高分解能かつ高信頼度の像の取得が可能なことを実証した(ニュースリリース)。

XFEL-CXDI法は,光学顕微鏡や電子顕微鏡では観察が難しい1μm程度の大きさの細胞や細胞内小器官などの内部構造を,試料の染色や切片化をすることなく,そのまま数10nmの分解能で可視化できる手法。特に,試料を瞬間凍結して極低温下で観察を行なう低温XFEL-CXDI法を利用すれば,細胞が機能している状態の構造を維持しながら観察できる。

一方で,生体試料からの回折シグナルは微弱であり,また,XFELを照射された試料は直後に破壊されるため,低温XFEL-CXDI法では試料を覆う氷を極力薄くするなど,複数の試料条件の検討が必要。その際,直接観測されるのは実像ではなく,試料からの回折パターンであるため,観察対象の像が正しく再生されているかも確認する必要があった。

研究チームは,凍結試料をそのまま観察可能な低温光学顕微鏡と低温電子顕微鏡をCXDI実験の事前・事後評価に導入し,試料測定の効率化と解析の信頼度向上を図った。

まず,低温下での光学顕微鏡や電子顕微鏡観察により,低温XFEL-CXDI法に求められる試料の作製条件の事前検討を可能にした。次に,光合成を担う細胞内小器官である葉緑体を対象とした低温XFEL-CXDI実験をXFEL施設「SACLA」を用いて行ない,イメージングするうえで必要な回折パターンを高い再現度で観測することに成功した。

さらに,低温光・電子相関顕微鏡法(一つの試料の同一視野を原理の異なる複数の顕微鏡で観察する手法)で観察した損傷の無い葉緑体の形状情報を回折パターンからの試料像の再生に利用し,XFELを利用したCXDIでは再生が困難だった比較的大きな試料のイメージングにも成功した。

研究では,試料と金粒子集合体に同時にXFELを照射することで,金粒子からの強い回折シグナルで試料由来の微弱な回折シグナルを増強し,従来よりも高分解能の情報を持つ回折データを観測できることも実証した。

この研究の実験手順を応用することで,XFELの効率的な利用が促進され,低温XFEL-CXDI法が生命科学の発展に大きく貢献していくことが期待できるとしている。

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