阪大ら,軌道揺らぎの時間スケールを観測

大阪大学は,東京大学,中国 華中科技大学との共同研究により,銅酸化物において,低温まで電子軌道が凍結せず,量子揺らぎにより揺動した状態を観測し,強磁場下で多周波数にわたる磁気共鳴実験により,その揺らぎの時間スケールを初めて明らかにした(ニュースリリース)。

物質を構成する電子の持つ多自由度(スピン・軌道・電荷)のうち,スピン自由度が最低温まで凍結しない「量子スピン液体」状態の実現は,多数の原子やイオンからなる凝集体(結晶やガラス等)を扱う凝縮系物理学における到達点の一つとされる。

金属酸化物の代表的な結晶構造であるペロブスカイト型構造を有する銅酸化物においては,スピン自由度に加えて軌道自由度も最低温まで凍結しない「量子スピン軌道液体」実現の可能性が指摘され,良質な試料を使った同グループを含む共同研究から,これまで軌道凍結のサインであるヤーン・テラー歪が最低温まで生じないことが明らかにされていた。

しかしながら,軌道状態のダイナミクスの観測等,量子スピン軌道液体の直接的な証拠は見つかっていなかった。

今回の研究では,ペロブスカイト型銅酸化物6H-Ba3CuSb2O9の良質な大型結晶を用いて,電子スピン共鳴(ESR)測定装置を用いた研究によって,低い周波数での観測では軌道が最低温まで凍結せず,高い周波数では軌道が凍結したように観測された。

この結果から軌道量子揺らぎの時間スケールが20ケルビン以下で100ピコ秒(1兆分の1秒)程度であることを明らかにした。

この成果は,超伝導やヘリウムの超流動と比類する「量子スピン軌道液体」のダイナミクスを明らかにしたもので,強磁場を用いて初めて可能となったもの。

研究グループでは今後,この研究成果に基づいて,「量子スピン軌道液体」状態を実現する新たな物質のデザインが可能となり,量子コンピュータなど量子情報制御の基盤形成に必要な物質開発にも影響を与えると期待されるとしている。

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