新潟大,ラマン分光でグラフェンの積層数を決定

新潟大学の研究グループは,グラフェンを支持する基板からのラマン散乱光がグラフェンによって遮蔽されることを発見し,これを用いることで,単層から30層までのグラフェンの積層数を簡便かつ正確に決定する方法を明らかにした(プレスリリース)。

グラフェンはタッチパネルや二次電池、キャパシター、センサーをはじめ、各種新規 デバイスの開発分野で非常に注目されている物質。これまで簡便なグラフェン積層数評価方法がないことが産業利用に向けた実用化のボトルネックとなっていた。

炭素原子どうしが結合して平面状に拡がるハニカム格子をつくっているグラフェンの電子の運動速度は光の速度の1/30と非常に速く,電子散乱が少ないので,整数量子ホール効果が室温でも観察できることが基礎物理の研究で明らかになっており,高速デバイスや導電性膜の開発に期待されている。また,透明電極,レアメタルフリーなタッチパネルなどへの応用もIT社会には不可欠となっている。

これまでの基礎研究から,グラフェンは積層数が少ないほうが「透明性」,「導電性」,「熱伝導性」,「キャパシター特性」などの性能を発揮しやすいことがわかっている。一方で,工業製品にするには「扱いやすさ」,「品質」が求められる。扱いやすいグラフェンの積層数は10層程度かそれ以上。また,製品の品質向上には積層数決定が必須。既存の方 法では6層以上は不明であり,産業利用には向いていなかった。

グラフェンは自立した状態で扱うことは難しく,たいていは酸化シリコン膜でコートされたシリコン(SiO2/Si)基板などに転写した状態で用いる。グラフェンはラマン活性を示す。基板に用いる材料にラマン活性を示すものを使用すれば,レーザー光を照射することで,グラフェン,基板,双方のラマンスペクトルを得ることができる。

これは,1層のグラフェンは可視光に対してほぼ透明であり,97.7%の光を透過するため。言い換えると,2.3%の光は通さないということになる。研究では,積層数が増えればグラフェンを透過する光の強度は減少し,それに乗じて基板からのラマンスペクトルの強度も減少することを発見した。

グラフェンを通過した後に基板に届く可視光の強度は,入射前の光の強度を1としたとき,0.977nの大きさに減少する。基板に届いた光によって,基板からのラマン散乱が生じる。基板からのラマン散乱光は,検出器に入る前にもう一度グラフェンを通過するため,強度は0.977n×0.977n=0.9772nの大きさになるはず。

基板上にグラフェンがないときの基板からのラマン散乱強度をI0,基板上にn層のグラフェンがあるときの基板からのラマン散乱強度をInとしたとき,各ラマン散乱強度とグラフェン積層数の関係はIn/I0=0.9772nで表されることが明らかになった。

この発明によって,簡便でありながら正確に積層数をもとめることができるようになった。さらに,既存の方法では6層までの積層数しか求められなかったところを30層まで求めることができるようになった。

また,これまで基板の材質はSiO2/Siや六方晶窒化ホウ素に限られていたが,この手法を用いることで,ラマン活性な物質(例えば,ダイヤモンド,GaAsなど)を基板に使用してもグラフェン積層数の決定が可能であることもわかった。

グラフェン積層数評価が可能な基板材料の増加により,用途に応じた基板材料を選ぶことができるようになり,グラフェンの新規な工業製品への展開が期待されるとしている。

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