大阪大学の研究グループは,有機導電性材料内におけるクーロンブロッケイド伝導を世界で初めて証明した(ニュースリリース)。
有機デバイスの発展は目覚ましいものがあり,中でも導電性ポリマーは安価な炭素系低分子から合成され,構造やドーピングによって金属,半導体,絶縁体と様々にその物性を変化させることから,様々なデバイスに応用されつつある。
そのような物性多様性の一方で,有機導体の電気伝導特性には未解明な部分が多く残されており,低温における非線形伝導も未解明のままだった。
低温物性は材料の伝導の本質を知るうえで非常に重要だが,有機材料では低温において無機材料にはない電流の電圧に対する強い非線形性が現れる。この非線形伝導に対し,これまで様々な伝導機構の説明が試みられてきたが,一般的で包括的な説明がなされたことはなかった。
「有機導体の電気伝導において低温ではクーロン相互作用が影響しているのではないか」との見方を示した報告もあったが,それを明らかに証明した例はこれまで無く,有機物性物理界の一つの謎とされてきた。
研究グループは,良好な半導体特性を示し,太陽電池研究でも注目される有機半導体:ポリヘキシルチオフェン(通称P3HT)を規則的に並べたシート状の2次元超薄膜を作製し,サブマイクロメートルの隙間を持つ金属電極上に約1nmの厚さの単分子シートを張り付け,電気伝導を計測した。
すると約150Kから4Kの低温範囲において,分子膜を流れる電流は温度に明らかに依存した電圧閾値を示し,閾値より上では電圧のべき乗で増加することを見出した。これらはクーロンブロッケイド伝導の典型的な特徴。
また,分子膜内における電荷がどのように非局在分布するかを量子状態計算し,二次元膜内における伝導島分布モデルを検証することで,有機薄膜内における二次元クーロンブロッケイド伝導の発現を理論的に証明した。
クーロンブロッケイド伝導はこれまで無機微粒子の低次元集合体,それも極低温でのみ発現すると考えられてきた。このクーロンブロッケイド伝導が有機導体にも発現していることを明らかにしたことがこの研究の最も重要な点。
多くの有機導体では室温付近でも伝導の非線形性を示す材料が多く,この研究成果により,有機導体では室温の伝導にもこのクーロンブロッケイド効果が影響していることが示唆される。この結果は有機伝導体の伝導機構の理解を根本的に覆すことにつながる可能性があり,今後ますます発展するであろう有機,分子デバイスの物性理解,設計に大きく役立つとしている。
関連記事「横浜市大,形状記憶効果を有機結晶で発現」「府大,有機化合物の発光特性を解く発光種を発見」「京大ら,有機分子の会合体を評価する手法を開発」