物質・材料研究機構(NIMS)は,電子顕微鏡などの電子源として期待されているランタンホウ化物(LaB6)単結晶ナノワイヤの表面を原子レベルでクリーニングする技術を開発し,電子源の高性能化と安定性の向上に成功した。
さらに,開発した電子源を走査型電子顕微鏡に組み込んで高分解能の像を得ることに成功し,実際に電子顕微鏡の高輝度・細束な電子源として使用できることを示した(ニュースリリース)。
電子顕微鏡の空間分解能を向上させるには,電子源から多量の電子を放出させた上で細く絞った,高輝度・細束の電子線が必要となる。現在,高分解能な電子顕微鏡では,針状のタングステンが電子源として使われているが,空間分解能を更に向上させるためには,タングステンより電子放出が容易なLaB6を用いた電界放射型の電子源の開発が望まれていた。しかし,LaB6が非常に硬く扱いにくいために電界放射型に必要なナノワイヤの作成が困難だった。
研究グループは米国ノースカロライナ大学と共同で,LaB6を化学気相堆積(CVD)法を用いて単結晶ナノワイヤとすることに初めて成功し,LaB6のナノワイヤからなる電子源の作製に成功した。さらに,LaB6ナノワイヤ電子源表面のクリーニング技術も開発し,電子放出特性を高め安定性の高い電子源の開発に成功した。
開発したLaB6ナノワイヤ電子源は,現行のタングステン電子源に比べ,電子線が細束であり,輝度が100倍,エネルギー幅が3分の2になることを確認した。また,電界放射顕微鏡に組み込んだ場合,電流密度が1000倍,電流の減衰なく5時間使用できることも実証した。
このLaB6ナノワイヤ電子源で実際にサンプルの観察を行なったところ,従来の水準を超える高分解能の電子顕微鏡像を得ることができたという。
今回開発したLaB6ナノワイヤ電子源は,従来の電子銃のタングステン電子源を交換するだけで簡単に実装することができる。今後,民間企業との共同研究によって,LaB6ナノワイヤ電子源の実用化・製品化を進めていく予定だとしている。
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