理研ら,不均一かつ微量な資料解析が可能なNMRを開発

理研,JEOL RESONANCEと仏ボルドー大学,CEAサクレー研究所の国際共同研究グループは,不均一かつ微量な生体試料の高分解能メタボローム解析が可能な核磁気共鳴(NMR)装置を開発した(ニュースリリース)。

メタボローム解析は,代謝(メタボリズム)によって生物の細胞内に生成される多数の代謝産物を網羅的に解析する手法。代謝反応から生命活動を包括的に理解するために用いられ,基礎研究だけでなく病理診断などでも応用されている。

メタボローム解析には,質量分析(MS)装置をはじめとした多数の分析機器が用いられている。中でもNMR装置は,生体から採取した尿や血液,臓器,細胞をそのまま検体とし,数百種以上の分子の混合物である不均一な代謝産物を高分解能で測定できることから,非破壊で,かつ得られる情報量が極めて多いメタボローム解析法として広く用いられている。

また,臓器や細胞といった不均一な検体についても,試料を高速で回転させるマジックアングル試料回転(MAS)法の登場により,高分解能のNMR信号の測定が可能となった。しかし,現状のNMR装置で解析するためには,10~20ミリグラムという大量の検体が必要となるため,小さな組織の測定や細胞種ごとに選別して測定することは不可能であり,この壁を乗り越える分析機器の開発が求められていた。

研究グループは,MAS法で用いる試料管の小型化と,NMRの検出器の改良により,感度と分解能の向上に取り組んだ。従来法では4mm程度だった試料管の外径を1mmと小型化することで,試料量の削減を図った。その結果,従来法の約1/50の試料量の500マイクログラムの微量試料からメタボローム解析が可能となった。

また試料管の素材には通常セラミックが用いられるが,分解能の向上とコスト低減のために樹脂製の試料管を新たに開発した。さらに,NMR信号を検出するコイルを外径1.9mmに小型化し,同時に検出器の部品を,分解能の向上のために主な材質をプラスチックに交換した。これらの改良により,従来法に比べて5倍の分解能を実現した。分析コストの面でも,従来のセラミック製試料管が1本当たり数十万円程度であったのに対して,開発した樹脂製試料管は1本当たり数万円程度になった。

新たに開発したNMR装置のメタボローム解析の性能を実証するため,ニワトリやブタのレバー(肝臓片),および生検のモデルとしてラット脳から採取した組織を検体として用いて検証した結果,組織に含まれるアミノ酸をはじめとする低分子を分離して高感度で測定できた。また,炭素の同位体13Cで標識したラクトース(乳糖)を測定し,代謝経路を追跡できることも示した。

研究グループは今後,生体組織からのバイオマーカーの検出や生検による医療診断など,従来法では試料量の制限により不可能であった分野へのNMRメタボローム解析の応用が期待できるとしている。

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