名古屋市大ら,水晶振動の観察に成功

名古屋市立大学は,高輝度光科学研究センター,広島大学らと共同で,世界で初めて水晶振動子の振動中の原子の運動を詳細に追跡することで,水晶振動子の振動機構を解明した(ニュースリリース)。

水晶振動子は,電子回路の正確な動作の基準となる電気信号を発振する素子として,時計など身の回りのさまざまな機器に広く利用されているが,水晶の詳しい振動機構は長い間不明だった。これは,水晶内の極めて高速かつ微小な原子の運動を追跡することが,これまで技術的に困難だったため。

振動している水晶の高速かつ微小な原子の運動を直接観測するために,共振現象と短パルスX線を利用した。水晶は振動すると交流電圧を発生するが,逆に水晶に交流電圧をかけると振動が起きる。かける交流電圧の周波数を変化させていくと,ある特定の周波数で共振現象が起こり,水晶の振動は大きく増幅される。

今回,共振周波数が30MHz(毎秒3千万回)の水晶振動子を用いて,交流電圧と共振している状態の結晶構造を,大型放射光施設SPring-8の短パルスX線を用いて調べた。SPring-8から発せられる短パルスX線を利用することで,高速に運動している原子の瞬間的な位置を,トロボ撮影するように1ナノ秒以下の時間分解能で追跡できる。

実験の結果,共振周波数の交流電場下で増幅された水晶の変形は,直流電圧下の変形に比べて1万倍に達することが分かった。実験に用いた水晶振動子は,電圧を印加すると厚みすべり変形により単位格子の角度γが変化する。10Vの直流電圧を水晶にかけてもγ角は90度からわずか0.00004度しか変形しないが,共振周波数の交流電場下では最大で±0.15度も変形することが分かった。

この共振現象による巨大な変形を利用することで,振動している水晶の微小な原子の運動を,世界で初めて明瞭に捉えることが可能になった。

水晶振動子の振動機構を解明するために,共振によってγ角が最小,最大になった時間の結晶構造を詳しく調べた。その結果,水晶振動子の安定した振動は,酸素原子がケイ素原子との共有結合に垂直な方向に弾性的に微小変位することで引き起こされ,この原子変位に伴う電気分極の発生が,力学的エネルギーを効率的に電気的エネルギーに変換することが分かった。

この研究で解明された水晶振動子の振動機構は,力学的なエネルギーと電気的なエネルギーとを相互に変換する効率的なエネルギー変換機構の一つとして,今後,新しいエネルギー変換材料やエネルギー変換技術の研究開発に応用できるとしている。研究グループは今後,水晶以外の圧電材料の振動機構を,この計測技術により順次解明していくことで,より効率的かつ革新的なエネルギー変換機構を探索していく予定。

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