東北大,レアメタルと近赤光で脳をコントロール

東北大学の研究グループは,ラット脳の神経細胞活動のオンオフを近赤外光により制御することに成功した(ニュースリリース)。

チャネルロドプシンなどの光感受性機能タンパク質を神経細胞に作らせ,光のオン・オフで神経細胞の活動をコントロールする技術は,光遺伝学(オプト ジェネティクス)とよばれ,生きている動物のねらった神経細胞の活動だけを,自由自在に変化させることができることから,この10年間に脳機能研究に大きな革新をもたらしてきた。また,視覚再建をはじめ,さまざまな神経疾患の治療につながる技術として注目されている。

しかし,可視光は大半が生体組織において吸収され,減衰してしまう。これに対し,近赤外光は生体組織による吸収が低いので,この帯域は「生体の窓」と呼ばれ,生体深部での光操作には理想的であるとされてきた。しかし,近赤外光信号を神経細胞に伝える方法が,これまでなかった。

研究チームは,レアメタル元素からなる結晶体のランタニドナノ粒子の,近赤外光エネルギーを吸収し,青,緑,赤などの可視光を発光する性質(アップコンバージョン)に注目。ランタニドナノ粒子をドナーとして近赤外光エネルギーを可視光に変換し,チャネルロドプシンなどの光感受性タンパク質をアクセプターとして神経細胞活動を制御するシステムを考案し,実験的に動作確認することに世界に先駆けて成功した。

具体的には,植物プランクトンの一種ボルボックスから得られた高感度のチャネルロドプシンを発現したラット大脳皮質ニューロンをランタニドナノ粒子の近くに置き,近赤外レーザーを照射したところ,レーザーパルスのオン・オフに同期して活動電位の発生が制御された。

研究グループでは,アップコンバージョン効率やチャネルロドプシン感度の改良などにより,生体深部の近赤外光操作が実用化されることが期待されるとしている。

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