東北大ら,高温超伝導体の謎をX線レーザーで解明

東北大学,米スタンフォード線形加速器国立研究所,米スタンフォード大学,加ブリテイッシュコロンビア大学を中心とする国際研究チームは,東北大学が開発した強力なパルス強磁場と地上で最強のX線光源の一つであるX線自由電子レーザー,Linac Coherent Light Source: LCLS を組合せて,高温超伝導体における重要な謎として知られている電子が局在して作る電荷の波が,3次元性を持つことを発見した(ニュースリリース)。

高温超伝導体の改良と発展は,低損失送電線,超高速コンピュータ,エレクトロニクスなどで社会に革新をもたらすものとして,開発競争が続けられている。現在使用されているMRI,加速器などの超伝導磁石を将来的に高温超伝導体に置き換ることも期待されている。

2012年,Y系高温超伝導体:YBCOにおいて,超伝導状態では物質の中で抵抗なく動き回る筈の電子が局在して静的な電荷の波:電荷密度波を作っており,それが磁場でより強固になる事が見出されて以来,電気抵抗のない超伝導状態と電荷の波の存在という矛盾する現象に多くの研究者が頭を悩ませてきた。

従来,この波は2次元的に配列していると低磁場の実験の報告から考えられてきたが,様々な強磁場中の実験は,それと矛盾する結果を示しており,その全貌は謎とされてきた。

電荷密度波の形を直接確かめるためには,強力な磁場の下で,強力なX線を用いて,電荷の波が格子をほんの僅かに歪ませることによる極めて弱い信号を捉えることが必要で,それは不可能に近いと見なされていた。

国際研究チームは,数年にわたり,SLACに設置されている地上最強のX線光源の一つであるLCLSと超強磁場を組み合わせる実験技術の開発に取り組んできた。

東北大学金属材料研究所のグループは,医療用MRIの数十倍の強磁場を千分の一秒の短時間に圧縮して発生する超小型のパルス磁場発生装置の開発に成功した。これにより,強力な磁場の下で,強力なX線を用いて,電荷の波が格子をほんの僅かに歪ませることによる極めて弱い信号を捉える手法を確立した。

実験では,YBCOに超強力な磁場を短時間加えて超伝導状態を抑制し,瞬間的に強度を増す電荷秩序波の信号を,磁場と同期した超高輝度のX線自由電子レーザー光をあてることで,直接捉えることに成功した。

その結果,これまで予想されていたのとは異なり,3次元的な電荷秩序の波が存在し,それは2次元的な波より強磁場では支配的になり,超伝導ともより密接な関係があることが発見された。これは,高温超伝導と電荷密度波が表裏一体の関係にあることを示している。

この全く予想外の新現象は,これまで報告された高温超伝導体における電子の局在に関する様々な実験の間での不一致と未開研究領域を解消することで,その全貌の解明に指針を与えるものとなった。

今回見出された高温超伝導体の新しい性質は,発見から30年以上に渡って続けられている高温超伝導体の謎の解明に重要な里程を付け加えることとなった。

今後,今回開発した強力な新しいツールを用いて,この新発見が高温超伝導体に共通な現象かどうかをはじめとして,その全貌が明らかになれば,高温超伝導体発現の機構が明らかになり,超伝導材料の革新に繋がることが期待されるという。

また,今回開発された手法により,高温超伝導体のみならず,様々な物質において磁場中で起こる結晶構造や電子構造変化を直接的に捉えることが可能になり,物質科学と材料科学の広範な分野での展開がもたらされると予想されるとしている。

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