東北大学の研究グループは,「さっと一吹き」するだけの短工程で、ほぼ理論限界となる高い発光効率を実現する有機ELができあがる分子材料を開発した(ニュースリリース)。
有機発光ダイオード(OLED)はLEDと同様に,デバイスに電場を印加して電流を流し,負の電荷を帯びた電子と正の電荷を帯びた正孔をデバイスの材料中で出合わせ,出合った際に生じるエネルギーを光として取り出す。
現代の有機ELでは,とくにリン光発光材料を活用することで,電子と正孔一つずつから光子が一つ発生するという量子効率100%という理論限界値が達成されている。この理論限界値を実現するためには,「有機ELデバイスを多層構造にする」という設計指針が最良と目されてきた。
この設計指針により,いくつもの有機物質を設計し,さらにその性質の異なる有機物質それぞれを薄膜として積層するという手の込んだ構造から高発光効率有機ELがつくりだされている。
今回研究グループは,「一つの基盤材料を設計することで単一層ながら,ほぼ理論限界値となる発光効率を実現した有機ELをつくることができる」という常識を覆す発見をもたらした。これは材料を「さっと一吹き」するだけで照明ができあがるというもの。
具体的には炭素と水素というたった二種の元素のみをつかった新大環状分子 (5Me-[5]CMP) を材料に使い,有機ELの設計指針を分子設計という根底から単純化することに成功した。これは,元素のもつ性能を最大限引き出し活用するという,元素戦略的観点からも重要な発見となるという。
研究グループでは,この新しい炭化水素材料が赤・緑・青という光の三原色すべてのリン光発光材料に適用できることまで実証しており,白色発光を行うデバイスの作製にも成功している。
今回,古い歴史をもつ天然芳香族分子「トルエン」が発見をもたらした。研究グループでは2014年に,より古い分子「ベンゼン」から有機電子材料をつくりだしていた。今回の発見は,ベンゼンの周辺にメチル(CH3)基をもった「トルエン」をつかうことで,より高機能な単一層・高発光効率有機ELの基盤材料となることを見つけたもの。
この成果は,これまでの発光ダイオードの構造・材料設計の常識を覆し,有機EL材料の新しい設計指針を見いだしたものとなるとしている。
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