慶大,新規シリコンの化学的評価に成功

慶應義塾大は,開発した16個のシリコン原子が中心の金属原子を球状に取り囲む「金属内包シリコンナノクラスター」の,酸素との反応性や熱的安定性の評価に成功し,化学的安定性の高い物質であることを明らかにした(ニュースリリース)。

ナノクラスターは,数個から千個程度の原子・分子が集合した数nmほどの大きさの超微粒子。原子・分子より大きく,バルクよりも小さいナノクラスターは,そのどちらとも異なる特異的な性質や機能を持っている。

その物理・化学的性質は,原子数や組成,荷電状態によって制御することができ,触媒,電子デバイス,磁気デバイスなどへの応用が期待されている。特に,エレクトロニクス分野では,シリコンなど半導体材料のナノクラスターを積み木のように組み上げて,新たな機能を持つ超微細集積構造を生み出す技術が注目されている。

ナノクラスターの化学的・熱的安定性は,材料として活用する上で,極めて大切な性質となる。しかし,これまで気相合成されたナノクラスターの構造や反応変化の様子を的確に追跡する手段が乏しかったため,その化学特性を材料応用の視点から評価することは極めて困難だった。

研究グループでは,16個のシリコン原子が,1個のタンタル金属原子を球状に包み込む金属内包シリコンクラスター(Ta@Si16ナノクラスター)の気相合成に成功している。このTa@Si16ナノクラスターをグラファイト基板上に蒸着し,化学特性を評価した。

その結果,Ta@Si16ナノクラスターが,シリコン単体よりも酸化されにくいことや,400℃程度まで安定であることを明らかにした。

今回明らかにされた性質によって,これまでに確立されてきた物質表面への蒸着法に加えて,400℃まで構造が変わらない高い熱的安定性の特徴を活かした昇華精製や,酸化し難いことによる有機溶媒への溶解といった化学的な手法によって,金属内包シリコンナノクラスターを基本単位とした,新たな機能材料や超高集積光・電子デバイスを実現できる基盤技術になるとしている。

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