理研ら,磁性絶縁体中の磁壁に金属的性質を観測

理化学研究所(理研)と米スタンフォード大学,中国上海交通大学,米バークレー国立研究所らの国際共同研究グループは,絶縁性の高い磁性体(磁性絶縁体)において磁壁が金属的性質を持つことを,走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を用いて観測することに成功した(ニュースリリース)。

磁性体では一般に,配向性が異なる磁区が試料内にランダムに分布する。各磁区の境界である磁壁は,磁区内とは異なった磁気状態や電子状態が生じ,それが磁性体の磁気的あるいは電気的性質を決定づける場合がある。しかし,電気を通さない磁性絶縁体の磁壁の電気的性質は解明されていなかった。

また,反強磁性体であるとともに,試料の電気的特性が金属から絶縁体へ変化するパイロクロア型結晶構造を持つイリジウム酸化物では,磁区内部は絶縁体にも関わらず磁壁には金属的性質を持つという興味深い現象が予想されているが,それを直接観測して裏付ける実験的な証拠はなかった。

今回,国際共同研究グループは,走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を利用した実空間観測によって,磁性絶縁体内部の磁壁の金属的性質の有無を確かめるとともに,磁壁の電気的,磁気的性質の解明を目指した。

走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を利用し,磁性絶縁体であるネオジウムイリジウム酸化物(Nd2Ir2O7)表面の伝導特性を評価したところ,細線状の金属的磁壁が温度変化によってランダムに現れ,外部磁場によって生成,消滅することが分かった。さらに,磁壁分布を観測しながら微細な電極間の抵抗を測定することで,温度,磁場変化による磁壁の電気伝導特性を定量的に評価することに成功した。

国際共同研究グループは,理論的に予測されていた磁性絶縁体の磁壁における金属的性質の存在を実験的に実証した。この成果は,固体中における磁性と電子状態に関する基礎的な理解を深めるとともに,金属的磁壁を利用した新しい磁気メモリーの実現につながることが期待できるものとしている。

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