九大ら,貴金属フリー燃料電池の開発を可能に

九州大学の研究グループは,熊本大学の研究グループとの共同研究により,高原子価(4価)の鉄に酸素が結合した化合物の単離に成功した。さらにその化合物が水素イオン(H)および電子と反応して水を生成することを見出した(ニュースリリース)。

鉄と酸素との反応は,生体系の多様なエネルギー変換システムの中枢機能を担っている。具体的には,酸素の運搬,酸素を用いた酸化反応,酸素から水への還元反応などを行う酵素の活性中心で,鉄は中心的な役割を果たしている。

そのような化学反応において,鉄に酸素が結合した化学種の構造や性質を明らかにすることは,生体系のエネルギー変換システムを理解し,人工的に応用するために重要となる。これまで多くの研究がなされてきたが,単核の高原子価(4価)の鉄に酸素が結合したペルオキソ種は,生体系でも人工的にも見つかっていなかった。

鉄を含む酵素の中でも,「酸素耐性ヒドロゲナーゼ」は,水素の活性化(水素から水素イオンと電子を生成:燃料電池のアノード反応に対応)と,酸素の活性化(酸素と水素イオンおよび電子から水を生成:燃料電池のカソード反応に対応)の両方を,貴金属元素を使用せず高効率で行なうため,近年の燃料電池の発展とともに注目を集めている。

これまで九州大学は,酸素耐性ヒドロゲナーゼの「水素活性化の中間体」のモデルとなる鉄(2価)にヒドリドイオン(H)が結合したヒドリド化合物の単離を報告しているが「酸素活性化の中間体」のモデルとなる鉄化合物は単離できていなかった。

今回,研究グループは,単核の高原子価(4価)の鉄に酸素が結合したペルオキソ化合物の単離に世界で初めて成功した。X線構造解析により,鉄に酸素が2本の結合手で結ばれた(サイド−オン型)構造であることがわかった。

この化合物は,上述の酸素耐性ヒドロゲナーゼの「酸素活性化の中間体」のモデルとなる初めての鉄(4価)ペルオキソ化合物。このペルオキソ化合物は,水素イオンおよび電子と反応して水を生成する。この反応は,燃料電池のカソード反応に対応する。

酸素を水に還元する反応は,燃料電池のカソードで起こっている反応と同じ。この研究の成果により,酸素耐性ヒドロゲナーゼの酸素活性化メカニズムの研究だけでなく,燃料電池のカソードにおける分子レベルでの酸素還元メカニズムの研究が飛躍的に前進したとしている。

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