名大,超耐光蛍光イメージング色素を開発

名古屋大学の研究チームは,生命現象などを可視化する超解像蛍光イメージングに最適な新しい蛍光色素分子「C-Naphox」を開発し,この色素が従来の蛍光色素をはるかに上回る耐光性をもつことを明らかにした(ニュースリリース)。

生体内の分子の動きを視るバイオイメージング技術の発展には,2014年のノーベル化学賞に選ばれた超解像顕微鏡の一つであるSTED顕微鏡が大きく影響を及ぼした。STED顕微鏡は,従来の蛍光顕微鏡の限界 を大きく上回る高い空間分解能によって,これまで識別が難しかった細胞内にある小器官の構造やタンパク質の動きなどの観察を可能にした。

しかし,強いレーザー光の照射を必要とすることから,タンパク質などに結合した蛍光色素の褪色が激しく,生きた細胞を視るライブイメージングなどの実践的なバイオイメージングへの応用が阻まれてきた。

研究グループは,従来の炭素(C),窒素(N),酸素(O)原子を中心とする分子骨格に,ホウ素(B),リン(P),ケイ素(Si),硫黄(S)などの通常ではあまり用いられない元素を組み込むという分子デザインをもとに,新たな蛍光色素の開発に取り組んできた。

その中で,15族元素であるリン(P)を含む有機蛍光分子の構造と蛍光特性の相関について調べる過程において,リンと炭素原子で橋かけした構造をもつC-Naphoxが極めて高い耐光性をもつことを発見した。

C-Naphox は,現在最も耐光性に優れた蛍光色素として知られる蛍光色素と比較しても圧倒的に高い耐光性を示す。例えば,強力なキセノンランプ(300 W)を用いて460±11nmの光を照射する実験を行なったところ,2時間の光照射によって従来の蛍光色素が初期濃度の26.2%および96.7%まで分解したのに対し,C-Naphoxは99.9%が分解することなく残っていた。

同条件で12時間照射を行ったところ,後者の蛍光色素が58.7%まで分解したのに対し,C-Naphoxは初期濃度の99.5%と,ほぼ定量的に生き残っていることが分かった。

C-Naphoxを用いて生きた細胞を染色し,STED顕微鏡を用いた蛍光イ メージングへの応用を試みた結果,極めて強いSTED光の照射下で50回繰り返し観察を行なっても,83%の初期蛍光強度を保持できることがわかった。

同条件で従来の蛍光色素を用いた場合には,数回の繰り返し測定でほぼ完全に褪色してしまうことと対照的な結果となった。

この超耐光性蛍光色素により,長時間の繰り返し測定を伴うタイムラプスSTEDイメージングや,ライブ STEDイメージングといった,従来の蛍光色素では不可能であった超解像蛍光イメージングが実現でき,数々の生命現象を高精細にイメージングできる手法の開発につながるとしている。

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