物質・材料研究機構(NIMS)と九州大学の研究チームは,高品質低価格のモノシリコン育成法を開発した(ニュースリリース)。
今回得られた成果は,シングルシードキャスト法という新しい鋳造法。従来の鋳造法に比べ結晶の品質を飛躍的に向上することができ,シリコン太陽電池の効率化が期待されるという。
現在,太陽電池の主流であるシリコン系太陽電池では,変換効率が20%に達しており,今後の開発では付加価値を高めるために,20%を上回る変換効率が求められている。
しかし,従来の鋳造多結晶シリコンではこの目標値を実現することが不可能であり,一方,半導体用の無転位単結晶シリコンでは価格競争に勝ち残れないため,多結晶シリコン,半導体用単結晶シリコンに代わる第3のシリコン材料の開発が望まれていた。
研究グループは,この問題を解決するため,種結晶を使ったシリコンの鋳造法「シングルシードキャスト法」を新たに開発し,結晶の品質が良く不純物の少ない単結晶シリコン(モノシリコン)インゴットを育成することに成功した。
新開発した鋳造法は,るつぼの中でシリコンを溶解し,小さな種結晶から単結晶を成長させる技術で,半導体シリコン単結晶の作成法に比べて,原料コストも製造コストも下げることができる。さらに,この方法で育成した結晶を用いて試作した太陽電池の変換効率は最大で18.7%を記録した。
これは,同時に評価した半導体用無転位単結晶(CZシリコン)ウエハの18.9%に迫るもの。今後,結晶欠陥と不純物の影響をさらに抑えることで,CZシリコンの変換効率を上回ることが期待されるとしている。また,現在の設備では50cm角のインゴットまで成長が可能であり,現実の生産ラインへ組み込むことができるようになったという。
研究グループでは今後,今回開発された技術や,その派生技術が日本の太陽電池製造メーカーに移転され,価格競争力のある太陽電池産業が復興することを期待するほか,さらにはシリコンを使ったパワーデバイス開発に成果を応用して,ワイドギャップ材料に比肩する高性能シリコン素子の開発に資することが期待されるとしている。
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