基生研ら,両生類の四肢再生をレーザーで解析

基礎生物学研究所,弘前大学,鳥取大学らのプロジェクトは,両生類の再生現象解明に必要な幾つかの技術開発と応用や解析を共同研究を通して進めてきた。1つは「局所的な遺伝子発現誘導技術」,1つは「エピゲノム解析」。これらを確立または応用し,再生研究に有効であるとして公表した(ニュースリリース)。

四肢などの3次元構造に基づく再生原理の解明には,イモリなど完全再生できる生物種とカエルなど不完全な生物種,そして,哺乳類のように再生できない生物種を使って様々な遺伝子の発現制御を総合的に理解することが必要。

発生においては様々な遺伝子群が,特定の場所で,特定の時期に発現することで3次元的な形態を構築していく。再生においても同様に進行すると考えられているが,それを解析するためには,時空間的な遺伝子発現制御が可能な技術による遺伝子機能解析が重要になると共に,エピゲノムの時間的な変化の解析も必要になる。

プロジェクトは,時空間的な遺伝子発現制御が可能な新しい技術であるIR-LEGO法の応用を目指して共同研究を開始した。IR-LEGO法とは,顕微鏡を使って赤外レーザーを集光し個体内の特定の領域だけを温め,熱ショックを起こさせて遺伝子発現を時期特異的かつ領域特異的に誘導できる方法。

カエルとイモリにIR-LEGO法ならびに,温冷負荷装置(金属プローブの温度を制御できる機器)を使って,組織レベルから単一細胞レベルまで様々な領域での標的遺伝子の発現誘導法の確立を目指した。またこれと並行して四肢の再生過程におけるヒストン修飾の状態をクロマチン免疫沈降法(ChIP)と次世代シークエンサーの利用によってゲノムワイドに解析した。

熱ショック応答はストレス応答反応としてほぼすべての生物が持つ。この応答を制御するゲノム領域(熱ショックプロモーター)の下流に目的の遺伝子とレポーター遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)を繋いだトランスジェニック個体をアフリカツメガエルとイベリアトゲイモリで作製した。

様々なステージ(幼生期や成体)において,再生中の四肢や尾など様々なターゲットに対してIRレーザー照射条件を検討し,レポーターの発現範囲などを調べた。その結果,極狭い範囲(単一細胞)の誘導には高倍率レンズ(高開口数)を,広い範囲(数十細胞の塊)には低倍率(低開口数)を使えば良いことが確認され,レーザー照射パワーに応じて誘導範囲をコントロールできることがわかった。また,温冷負荷装置で高温にした金属プローブでは,より広範囲の誘導が可能なこともわかった。

R-LEGOでは対物レンズの特性(開口数)や照射レーザーパワーにより赤外レーザーの集約状態が変わり,熱ショックによる遺伝子発現誘導領域を単一細胞レベルから数十細胞など広範囲まで制御することができるので,研究の目的により誘導領域を変えることができる。

次に,この技術を使って,アフリカツメガエルの幼生における再生中の尾での遺伝子機能解析も行なった。その結果,再生中の脊髄の神経前駆細胞においてHippo経路と呼ばれるシグナル伝達系が無脊椎動物から脊椎動物まで普遍的に「形と大きさ」を制御する機能を有することを示唆した。

代表的なゲノムのヒストン修飾としてクロマチンを開いた状態にするH3K4トリメチル化(H3K4me3)と,逆にクロマチンを閉じた状態にするH3K27トリメチル化(H3K27me3)がある。そこに着目し,変態前のネッタイツメガエルの切断前の肢芽(四肢原基)と肢芽を切断した後にできる再生芽を材料に,四肢再生におけるヒストン修飾状態をゲノムワイドに解析した。

その結果,肢芽と再生芽においてH3K4me3とH3K27me3の状態はほとんど変化せず一定に保たれることを明らかにした。この研究は両生類において,ゲノムのエピジェネティック修飾と器官再生メカニズムとの関連を明らかにするための先駆的な成果になると期待できるものだとしている。

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