東大ら,無色透明な超高弾性ガラスを開発

東京大学と高輝度光科学研究センターは,無容器法を用いることで,酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化タンタル(Ta2O5)のみからなる新しい組成のガラス(54Al2O3-46Ta2O5)の開発に成功した(ニュースリリース)。

酸化アルミニウム(Al2O3)はガラス形成則から考えると中間酸化物であり,酸化アルミニウム(Al2O3)を主成分とする単純な組成ではガラス化しないとされてきたが,酸化タンタル(Ta2O5)とほぼ1:1の組成で混ぜ,無容器法を適用することで,無色透明なガラスにすることができた。

さらに,このガラスが極めて高い弾性率を示すことがわかった。例えば,弾性率のひとつであるヤング率は160GPaに達する値を示す。典型的な酸化物ガラスの場合は80GPa程度,鋳鉄は152GPa,鋼は200GPa程度なので,新たに合成したガラスの弾性率は,ガラスよりも鋼に近いことがわかる。

このガラスがなぜ極めて高い弾性率を示すのか,そしてなぜこうした組成でガラスになることが出来たのかを解明するために,走査型透過電子顕微鏡でAlとTa原子の分散状態について,そして核磁気共鳴でAl原子核の局所環境についての情報を得た。

その結果,AlとTaが原子レベルで均一に分散していること,そして周囲の酸素の数が5である(酸素配位数が5の)Al原子の割合が非常に多いことがわかった。

通常の酸化物ガラス中に酸化アルミニウム(Al2O3)を少量添加した場合は,ほぼ4配位になり,5配位は珍しい局所構造。その結果として,ガラスは全体的に隙間無く密につまっていた。また,こうしたAl原子周囲の特異な局所構造は,Taという元素によってもたらされたということを提案した。

Al2O3-Ta2O5ガラスで見られたAlやTaの特徴的な振る舞いは,従来のガラス形成則の考え方からは大きく逸脱しているもの。そのため今回開発した高弾性率ガラスは,本質的に新しいタイプのガラスであるとしている。

今回,酸化アルミニウムと酸化タンタルのみを組成とするだけでもガラスができるになることを示した。これはガラス科学にとって新たな材料空間が発見されたとともに,Al周囲の局所構造を制御することでさらなる新材料を生み出せる道筋が見つかったとしている。

開発したガラスの弾性率と硬度は極めて大きいことから,薄くしても丈夫な新素材として,さまざまな分野で使われるガラスのベース素材となる。特に無色透明であることから,3~5年後の近い将来,カバーガラスなどといった製品の開発につながることが期待される。

日本発の新素材として,基礎研究段階から製品化プロセスへの速やかな移行が求められている。また,これまでのガラス科学が想定していなかった元素の組み合わせでもガラスになること,そしてそれらのガラスが極めて高い特性を持つことを,原子レベルで示した。今回の成果をきっかけとして,今後のガラス研究の枠組みが大幅に広がる可能性が期待されるとしている。

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