名大,陽子線の発光画像で飛程の計測に成功

名古屋大学の研究グループは,陽子線ビームを水に照射した際に発生する微弱光を画像化し,陽子線飛程を高精度で計測することに成功した(ニュースリリース)。

陽子線治療は,陽子線が選択的に高線量を腫瘍に与えることが可能なため,注目を集めている。陽子線治療においては,間違いなく陽子線が目的とする部位に照射されていることを確認するために,照射中あるいは照射直後に線量を測定したいという要求がある。

現在は,陽電子放射型断層撮像法(PET)を用いて,陽子線照射により生じた陽電子を,照射後に画像化することで線量分布を得ることが試みられているが,PET装置は空間分解能が比較的低い(4-5mm程度)ことやコストが高い(数億円)上,照射中の線量分布と,発生する陽電子の分布が異なるという問題点があった。また,陽子線照射中に線量を知ることができない問題点もあった。

一方で,陽子線照射により,水が発光するとは考えられていなかったことから,これまで陽子線照射中の線量分布画像を光計測で得たという報告はなかった。

研究グループは今回,世界で初めて,陽子線が水中で微弱光を発することを発見し,この微弱光を高感度CCDカメラで撮像することで陽子線が水に与える線量分布を画像化することに成功した。

また,容器に封入した水に陽子線を照射した状態で,高感度CCDカメラで容器中の水を撮像した。その結果,陽子線によって水に生じる微弱光の分布を鮮明に画像化することができた。また,画像から得られた陽子線の飛程の形状は,明確なブラッグピークを有し,その飛程は電離箱を用いた測定値と一致した。

今回の研究成果は,新しい陽子線計測法の発見といえるもの。研究グループは,検出した微弱光は陽子線照射で水に生じたフリーラジカルに起因すると考えている。

水は,人体を模擬する最良の物質だが,今回の研究は,水そのものが陽子線の検出器となりうる性質をもっていることを明らかにした。今回の手法は,陽子線照射中に実時間で線量分布の画像化が可能であり,高い空間分解能の画像が得られることから,陽子線治療における線量評価や装置の精度管理に大きく貢献するものと期待されるとしている。

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