東大,過去の星形成メカニズムを解明

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の研究グループは,電波望遠鏡を用い,遠くの宇宙にある7つのスターバースト銀河の観測を行ない,遠方のスターバースト銀河の環境が,激しい星形成が起きている近くのスターバースト銀河と似ていることを突き止めた(ニュースリリース)。

銀河では時折,スターバーストと呼ばれる爆発的に星が作られる現象が起きる。こうした爆発的な星の形成が起きている銀河のことをスターバースト銀河と呼び,銀河の進化に重要な役割を果たしていると考えられている。我々の近くにあるスターバースト銀河では,ガスが星へと変換される効率が高いことが知られており,通常の銀河での星の形成とは違ったメカニズムを示している可能性がある。

従来の研究から,銀河における星の形成は90億年前に最も盛んだったことが知られている。しかし昔の宇宙で爆発的な星形成が引き起こされていた物理的メカニズムは完全には明らかになっていない。星形成を盛んにするような環境がどのようなものかを調べ理解することは銀河の進化の過程を理解する上で重要となる。

研究グループは,南米チリのアタカマ高地にあるアルマ望遠鏡 (ALMA) とフランスのビュール高原にあるビュール高原電波干渉計 (PdBI) の二つの電波望遠鏡を用いて,銀河同士の衝突を起こし星形成の盛んな遠くの7つの銀河が放つ一酸化炭素分子ガスの電波を観測した。

観測した7つの銀河はCOSMOSフィールドと呼ばれる天域において赤外線宇宙望遠鏡ハーシェルが行なった観測で見つけられた星形成の盛んな銀河。さらにその一部は,ハワイのすばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器 FMOSを用いて2014年に近赤外領域での観測も行なっている。

FMOSの観測では,分光で得られる正確な赤方偏移の値や星が作られる割合 (星形成率),金属量を測るのに用いられる水素原子や窒素原子,酸素原子それぞれから出される輝線を得る事が出来た。

観測結果の解析から,今回観測した遠方のスターバースト銀河では,一酸化炭素分子ガスの量はすでに減少していたものの高い星形成率を保っており,期待されるほど早いガス量の減少はないものの,近くのスターバーストと似た状況を示していることが分かった。

この結果はつまり,昔の宇宙でも現在と似た環境下で爆発的な星形成が起きていた可能性を示したことになる。今回の研究成果はあらゆる望遠鏡を用い得られた結果だが,なかでも遠方の銀河に存在するガスやダスト(塵)の密度が特に高い部分(分子雲)を詳細に調べる事のできる,アルマ望遠鏡の能力が貢献した。

今後,アルマ望遠鏡を用いた電波による観測とFMOSを用いた近赤外線による観測の両面から,遠方のスターバースト銀河をさらに調べることで,過去の宇宙においてどのような環境下で爆発的な星形成が起きていたのかをより詳細に明らかにし,過去から現在に至るまでの銀河の進化に迫ることが期待されるとしている。

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