早稲田大学理の研究チームは,常温で液状の液体有機半導体を発光材料に用いた,マイクロ流体白色有機ELデバイスの実現に成功した(ニュースリリース)。
有機ELディスプレイや照明は面発光や広視野角,フレキシブル性等の特徴を有している。一方,2009年に九州大学から初めて報告された液体有機ELは,有機溶媒を用いずに常温で液体の液体有機半導体を発光層として用いており,固体有機ELで問題とされてきた曲げによるクラック発生を回避できるフレキシブルデバイスの実現へ向けた第一歩となった。
しかし,従来の液体有機ELデバイスは1種類の液体有機半導体を透明電極付きの2枚のガラス基板で挟み,スペーサー材料によって発光層の厚さを制御した単純な構造で構成されており,1つのチップ内で異なる種類の液体の塗り分けやデバイスの屈曲が困難であるという課題点があった。
そこで,同大では今までに,1チップ上で異なる種類の液体有機半導体の塗り分け及びEL発光を可能にする電極付きマイクロ流体デバイスの作製技術(マイクロ流体有機EL)を開発した。また,液体の流動性を活かした曲げに強いフレキシブルマイクロ流体有機EL作製や,ピレン誘導体の液体有機半導体に微小量のゲスト分子を添加することによるマルチカラーEL発光技術を展開してきた。
研究チームは今回,集積化した微細マイクロ流路構造を有し,青緑色と黄色の液体発光材料を用いたマイクロ流体白色有機ELデバイスを提案した。幅が60µm程のマイクロ流路を並列に形成した構造を作製して,その並列流路に青緑色と黄色の液体発光材料を交互に注入し,同時に発光させることで可視光領域を幅広くカバーする白色発光が可能であることを明らかにした。
マイクロ流体白色有機ELデバイスは,MEMSプロセスと自己組織化膜を用いた異種材料接合技術によって電極間距離を10µm以下に制御した集積化マイクロ流路構造を作製した。また,青緑色の液体発光材料としてピレン誘導体の液体有機半導体PLQ(日産化学製)を用いた。黄色の液体発光材料はPLQを液体ホスト材料として用いそれに固体ゲスト発光材料を添加する手法を適用することで調整した。具体的には固体の黄色発光材料として蛍光量子収率が高いテトラセン誘導体の固体有機半導体TBRbをゲスト分子として用た。
2013年に同研究グループが提唱した1mm幅,6µm厚のマイクロ流体有機ELデバイスを用いて,青緑色の液体有機半導体PLQから420~650nmの,黄色の液体発光材料TBRb-PLQから520~750nmの幅広い光スペクトルを得ることができた。このことから青緑色と黄色の液体発光物質を同時に光らせることで白色発光に必要な可視光領域を幅広くカバーする発光が可能であると考えた。
そこで,並列ライン流路構造のマイクロ流体デバイスを作製して,PLQとTBRb-PLQを交互に流路に漏れなく注入できることが確認でき,並列ライン状発光層を得る事に成功した。提案した作製技術は集積化した数十マイクロメートル幅の液体発光層を実現するのに有効で,今後様々な微小発光デバイス制作に応用できるという。
このデバイスに電圧100Vを印加することで,青緑色と黄色の液体発光材料が同時に発光し,白色発光に必要な可視光領域を幅広くカバーするスペクトルを得た。また,色を数値で表現する方法(CIE表色系)を用いて測定した結果,目にやさしい暖かい白色が確認できた。
自由に形状が変形できる液体材料を用いることにより,従来の固体有機半導体薄膜を用いた有機ELデバイスとは異なる特徴を有する新しいディスプレイや照明への応用が期待される。また,マイクロ流路への液体の注入により発光層が高真空プロセスを用いずに容易に形成できる特長を活かしてオンデマンド励起光源を実現することで,生化学や医療分野で待望されているポータブルバイオチップに開発にも応用できるとしている。
研究チームは今後,マイクロ流体有機ELの次世代のディスプレイ及び照明としての応用に向けて,固体有機薄膜の有機ELに相当する輝度や寿命を確保できるよう,未解明な点が数多くある液体半導体のメカニズム解明及び最適なデバイス構造設計指針を検討していくとしている。
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