阪大ら,ニッケルナノ粒子による炭素結合を達成

大阪大学および産業技術総合研究所の研究グループは,安価で入手容易なニッケルを用いて直径が最大15nmの非晶質ナノ粒子を世界で初めて合成し,このニッケルナノ粒子を用いることで触媒的な炭素-炭素結合形成反応を達成した(ニュースリリース)。

金属ナノ粒子は,金属の塊と比較して表面に露出した金属原子の割合が高く,バルクの状態では見られないさまざまな化学・物理特性を示すことが知られており,次世代の有機合成触媒として研究されている。特にパラジウムなど貴金属のナノ粒子は,炭素―炭素結合形成反応の触媒として非常に有用であることが明らかになってきている。

しかし,これら貴金属は産出量が少なく高価なため,卑金属ナノ粒子でさまざまな炭素-炭素結合形成反応を実現することが望まれている。だが,卑金属ナノ粒子触媒の合成には特殊な保護剤が必要となるなど,製造コストに難点があり,また,従来の方法で合成された卑金属ナノ粒子では極めて触媒活性が低く,目的とする炭素-炭素結合形成反応がほとんど進行しない,という問題点があった。

既に研究グループがその高い還元能力を明らかにしている有機ケイ素化合物を,ニッケルアセチルアセトナートに対して作用させたところ,最大で直径15nmのニッケルナノ粒子が形成されたことを確認した。また,得られたニッケルナノ粒子が非晶質であることも同時に明らかとなった。これまでに報告されている合成法では,高い結晶性を有するニッケルナノ粒子が形成されることが知られており,結晶性という観点からナノ粒子の性質が大きく異なる。

代表的な炭素-炭素結合形成反応の一つである,触媒的ビアリール合成反応をモデル反応として,今回研究で合成された非晶質ニッケルナノ粒子と,従来法により別途合成した,結晶性ニッケルナノ粒子の触媒活性を比較したところ,非晶質ナノ粒子の場合のみ,極めて高い触媒活性を示すことが明らかとなった。

触媒反応の進行を確認するため検討を進めたところ,非晶質ニッケルナノ粒子には活性の高いニッケル原子の放出と貯蔵を自由自在に繰り返すタンクのような役割があることがわかった。つまり,ナノ粒子からニッケル原子が放出され,炭素-炭素結合形成反応を触媒した後,不活性となったニッケル原子を有機ケイ素還元剤が活性化し,再びナノ粒子に回収されるということが明らかとなった。

一方で,高い結晶性を有するニッケルナノ粒子では,このニッケル原子の放出が極めて起こりにくく,触媒として有効に作用しない。また,この手法で合成したニッケルナノ粒子は,同手法で合成したパラジウムや白金などの貴金属ナノ粒子をはるかに凌駕する触媒活性を示した。

非晶質ニッケルナノ粒子を用いた触媒反応は,ビアリール合成反応のみならず,ジアリールメタノール誘導体合成反応にも応用可能であり,今後さらに幅広い反応への応用が期待されるという。

今回研究で開発した非晶質ニッケルナノ粒子は,安価で入手容易であるにもかかわらず,炭素-炭素結合形成反応において貴金属ナノ粒子より高い触媒活性を示す。これにより,ナノ粒子触媒の実用化において大きな問題となる製造コストを劇的に改善できるという。

また,共存する反応剤として有機ケイ素還元剤を用いているため,重金属などの環境負荷の大きな廃棄物を伴わない,クリーンな反応を実現している。今回の研究で合成したビアリールやジアリールメタノールは,導電性高分子や医薬品の部分骨格であり,生活の中の身近な製品への展開も望まれる。

また,研究グループでは,同手法を用いることでニッケル以外の金属粒子も容易に形成できることを報告している。これにより,有機ELといった有機化合物の有機合成触媒へのさらなる展開,また,金属ナノ粒子の代表的な応用法であるナノマシンや量子ドットといった次世代のマテリアルを実現する大きなきっかけとなることが期待されるとしている。

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