東京大学と,スペイン アリカンテ大学の国際共同研究グループは,COPVと名付けた独自開発の剛直なはしご型炭化水素化合物を発光色素として用いることで,有機固体レーザーの高効率化・長寿命化に成功した(ニュースリリース)。
レーザーは現代社会には欠かせない技術であり,小型で安価なデバイスはレーザーの応用の可能性をさらに広げるものと期待されており,その材料としては有機色素が最有力候補となっている。
しかし実用的には,波長可変性,発光帯幅,レーザー発振の閾値,利得,寿命,低温・溶液プロセス性など全ての要件を満たすことが必要であるが,既存の有機色素ではいずれかの要件は満たすものの,全てを満足するものはこれまでに報告されていない。
研究グループは,特徴的な剛直はしご型分子構造を持つ炭化水素化合物である「炭素架橋オリゴフェニレンビニレン」(略して「COPV」)を発光色素として用いることで,有機固体レーザーの高効率・長寿命化に成功した。なお,東大グループは化合物の合成,スペインのグループはレーザー素子の作製と評価を担当した。レーザー発振には光ポンピングを用いた。
COPVとマトリックス(ポリスチレン)の混合溶液から溶液プロセスで作製した薄膜を用いて,分布帰還型(DFB)のレーザーを作製した。分子のサイズに応じて可視光の幅広い範囲(408~591nm,青色から橙色)にわたって発光色を変えることができ,それぞれの発光色において線幅の狭い単色性を示した。
COPV3からCOPV6という比較的長い分子を用いた場合には,良好な効率と寿命を示した。特に,橙色領域に発光を示すCOPV6を用いると,低いレーザー発振閾値(0.7kw/㎠=70 nJ/pulse),狭い発光帯幅(0.13nm),空気中での長い寿命(10万回以上の発振が可能)と,既存の色素を凌駕する高いトータル性能を達成した。
一方で,COPV1やCOPV2という短い分子を用いた場合は青色(短波長)領域に発光を示すが,閾値や寿命に問題が残っており,今後これらの課題を解決する必要がある。
今回,高効率化を実現した要因としては,COPVの極めて高い発光効率(ほぼ100%)が挙げられる。また,デバイスの長寿命化を実現した要因としては,炭素のみから成る剛直な分子骨格,分子軌道の広がり,さらには側鎖の立体保護効果が寄与しているものと考えられるという。
これらの要因は,どちらもCOPVの分子構造に起因するものであり,今回の研究から得られた分子構造とデバイス性能・安定性の関係についての知見は,今後のレーザー色素開発のための設計指針となると期待される。
デバイス構造や分子構造の最適化などによって,発光ダイオードなどの弱い光を用いたポンピングでも発振が可能になると,小型で安価なレーザーシステムが構築できるようになる,研究グループでは,今後多方面への波及効果が期待できるとしている。