東京大学と宮崎大学の研究グループは,高効率太陽電池の電力で水を電気分解するシステムを構築し,太陽光エネルギーの24.4%を水素に蓄えることに成功した(ニュースリリース)。
これまで研究されてきた光触媒を用いた太陽光水素の製造では,太陽光から水素へのエネルギー変換効率は10%未満に留まる。10%を超える変換効率は,太陽電池と同様な半導体素子と水の電気分解のための電極を組み合わせた光電気化学装置によってのみ得られており,イスラエルのグループが2000年に達成した18.3%がこれまでの最高記録だった。
先月,オーストラリアのグループが,集光型太陽電池と水の電気分解装置の組み合わせで太陽光から水素へのエネルギー変換効率22.4%を実現した。しかし,これらの実験結果は実験室内の模擬太陽光源で得られたものであり,より実用に近い,実際の太陽光下での高効率水素発生の実証が望まれていた。
今回研究グループは,宮崎大学の屋外試験場に設置した新型の高効率集光型太陽電池に高分子膜を用いた水の電気分解装置を接続し,実際の太陽光下で安定的に水素を製造することに成功した。太陽光から水素へのエネルギー変換効率は24.4%であり,世界最高記録を樹立した。
今回の実験では,集光型太陽電池の研究開発拠点となっている宮崎大学において,光学系の設計を改良した住友電気工業製の集光型太陽電池を,THK製の高精度太陽追尾架台に搭載することにより,宮崎の日照条件で発電効率31%を達成した。
太陽電池の発電効率は接続する機器の電気抵抗に依存する。今回は,太陽電池と水の電気分解装置の電流電圧特性を考慮して直列接続数を最適化することで,31%の高効率で発電した電力をほぼ損失ゼロで電気分解装置に導入できた。今後,集光型太陽電池の発電効率は35%まで向上すると見込んでおり,太陽光から水素へのエネルギー変換効率は28%に達すると予想する。
今回実証に用いた太陽電池と電気分解装置は市販されており,設置条件に合わせた設計により太陽光から24%の高効率で水素を製造することは現在の技術で実現可能。一方,太陽光由来の水素をエネルギー源として大規模導入するためには,製造コストの低減が必須となる。
現在,集光型太陽電池は通常の太陽電池に比べて高価だが,直射日光の強い海外の高照度地域では,発電効率が高い分発電コストを低減できる。海外での大規模な水素製造に必要なギガワット級の導入が進めば,集光型太陽電池の価格はシリコン太陽電池並みに下がると予想されている。
技術革新と大量生産により低コスト化した水の電気分解装置と組み合わせることで,米国エネルギー省が目標とする水素コスト1kg あたり4ドル以下へのコスト低減が見込まれるという。
研究グループでは将来,集光型太陽電池と水の電気分解による安価な水素を海外で大規模に製造し,大陸間の水素キャリア技術により日本に輸送し,各種エネルギー源として用いることで,日本への再生可能エネルギーの大規模導入が期待されるとしている。
関連記事「理研,太陽電池を用いた高効率水素変換システムを構築」「NEDO,人工光合成の水素製造でエネルギー変換効率2%を達成」「太陽光発電向けフライホイール蓄電システムが完成」