北陸先端大,高速リチウムイオン輸送性新型有機固体電解質を作製

北陸先端科学技術大学院大学の研究グループは,有機系固体電解質として最高水準のリチウムイオン輸送特性を示す新材料の開発に成功した(ニュースリリース)。

近年,リチウムイオン2次電池の安全性を解決しうるアプローチとして固体電解質を採用した全固体リチウムイオン2次電池への期待が高まっている。しかしながら,高分子固体電解質の代表格として数十年来検討されてきたポリエチレンオキシド誘導体における高分子のセグメント運動に依存したイオン輸送においては,理論的に低分子エーテル誘導体の拡散速度を超えることができず,理論的上限が常に指摘されていた。

一方,無機系固体電解質においては,有機系固体電解質よりも大幅に優れたイオン伝導特性を示す材料が以前より報告されてきた。しかし,無機系固体電解質においてはフィルム形成能や電極との接触面積の確保が課題となるケースが多く,依然としてソフトマテリアルとしての有機系固体電解質への期待は極めて高い。

無機系固体電解質における高いリチウムイオン輸送能はイオン輸送パスの構造が制御されていることに起因するが,類似したイオン伝導パスの構造制御の概念を有機系固体電解質に適用する試みが度々行なわれてきた。例えばポリエーテルやイオン液体への液晶構造の導入例,MOF(Metal-Organic-Framework)の導入例などを挙げることができる。

一方,この研究では有機ホウ素系結晶を足場としてホウ素―アニオン相互作用によってイオン伝導パスに秩序を与えることを試みた。その結果,系へのリチウムイオンの導入方法によってイオン伝導度が大きく異なるという特異的な挙動が観測された。

評価は,手法1)有機ホウ素結晶とリチウム塩とを固体のまま粉砕,混合しペレット状にしたサンプルは,手法2)有機ホウ素結晶とリチウム塩とを共溶媒に溶解させ混合した後に溶媒を減圧留去,乾燥したサンプルと比較して大幅に高いイオン伝導度を示した。

これは,前者の系における結晶構造がホウ素―アニオン相互作用を通してイオン伝導パスに秩序を与えた結果と考えられ,実際に前者の系では後者と比較してVFT(Vogel-Fulcher-Tammann)式から算出されたイオン輸送の活性化エネルギーが顕著に低下していることが明らかとなった。

研究グループは,今回の材料設計コンセプトを活用することにより1)有機系固体電解質の持つ加工性,電極との良好な接触性と2)無機系固体電解質の高イオン伝導性を併せ持つ革新的な材料の開発につながることが期待されると共に,環境対応自動車向けリチウムイオン2次電池や高容量定置用電源等の分野における技術革新に結び付くと期待している。

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