東工大,光で細胞内にCOを放出する仕組みを考案

東京工業大学の研究グループは,合成した分子のカゴをスイッチとした細胞内一酸化炭素(CO)放出システムの開発に成功した(ニュースリリース)。具体的には,フェリチンと呼ばれるカゴ状のたんぱく質の中に,COが結合した金属を閉じ込め,光を当てることによって,COがカゴから抜け出す仕組みを作り出した。

ヒトのからだは,体内に存在する様々なガス分子が伝達する信号によって保護されている。中でも一酸化炭素(CO)ガスは,生体内での取り扱いが難しい分子だったが,近年,金属にCOが結合した分子からのCO放出反応を利用して,生体内へCOを輸送することが可能となり,COの細胞を保護する機能を持つことが徐々に明らかにされている。

しかし実際には,COの放出のタイミングや量を人工的にコントロールすることが困難であったため,COが細胞内で伝達する信号を詳細に理解するには至っていなかった。

研究グループは,光を当てたときにのみCOを放出させる性質を持つマンガンカルボニル錯体の細胞内輸送に着目し,COの放出のタイミングや量をコントロールすることを目指した。カルボニル錯体は毒性や細胞内環境での不安定性が問題点とされるが,研究グループではこれまでに8nmの内部空間をもつカゴ状たんぱく質フェリチンへの内包によって改善されることを見出している。今回の研究においても、マンガンカルボニル錯体をフェリチンのカゴの中に集積させた複合体で細胞内へ輸送することにした。

合成した複合体に光を照射し,CO放出実験を行なったところ,光刺激によって望んだタイミングでCOを放出できること,その放出量を光の照射時間によって変化させることができることが分かった。つまり,複合体は,光に応答するCO放出スイッチとしての機能を有しており,COの放出のタイミングや量を人工的に制御できる性質を持つことが明らかになった。

NF-κBの活性化因子であるTNF-αと呼ばれる分子を添加したヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)へ複合体を導入し,光を当てることによって細胞内でのCO放出を誘導した。結果として,NF-κBを効率的に活性化させるには,1. 光照射によってCOが放出され,その信号が伝達された後に,2. NF-κBの活性化因子であるTNF-αの刺激が加えられることが重要であると分かった。

さらに,より多くのCOが放出されることもNF-κB活性化の向上に寄与していることを見出した。以上のCOの効果は,細胞内でCO放出スイッチとして機能する,今回合成したマンガンカルボニル錯体とフェリチンとの複合分子を用いることによってはじめて明らかにされた。

今回の研究では,COがTNF-αとNF-κBが関与する経路に着目したが,細胞内にはさらに様々な信号伝達経路が存在しており,今回,作製したスイッチを作動させるタイミングを調節することで,今後より詳細にCOの作用機構についての解明が進められていくとしている。さらに,カゴ状たんぱく質を用いた細胞内で機能するスイッチの設計指針は,将来的にガスの放出以外の様々な化学反応を細胞内で進行させるために適用可能であるという。

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