JAXA,衛星と64APSKによる505Mb/sでの通信に成功

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究グループは,これまで地球観測衛星では実用化されていなかった,周波数利用効率が8PSK方式の2倍,16QAM方式の1.5倍の変調方式である,64値振幅位相変調方式(64APSK)について,衛星からの送信技術,地上での受信技術を開発することに成功した(ニュースリリース)。

近年の地球観測衛星は,数十cmの物体まで見分けられる能力を持っているが,観測データを地上に伝送するためには,高速な伝送回線が必要となる。しかし,電波の周波数帯域幅は限られており,観測データの伝送の高速化のためには,周波数帯域幅を効率よく利用する技術の開発が課題となっていた。

研究グループはアイ電子と協力し,優れた歪特性を持ち高効率な窒化ガリウムを用いた高周波増幅器を開発した。また誤り訂正符号にターボ符号を採用することにより,効率の良いデータの誤り訂正が可能となっている。装置はアドニクスが製造し,「ほどよし4 号」に搭載した。装置重量は1.3kg。

実証では,地球観測のデータ伝送に割り当てられているX帯の電波(周波数8025-8400 メガヘルツ)の周波数帯域幅375メガヘルツのうち,1/3となる125メガヘルツの帯域のみを使用して効率的に505Mb/sの通信に成功した。

研究グループは今回開発した成果を,東京大学とともに,2014年に打ち上げられた重量64kgの超小型衛星「ほどよし4号」の高速通信システムに適用した。

「ほどよし4号」から505Mb/sの速度でデータを送信し,直径3.8mのJAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)のアンテナ受信設備でデータを誤りなく受信することに成功した。64APSK方式は,地球観測衛星としては世界最高の周波数利用効率を持ち,505Mb/sの伝送速度は100kg以下の小型衛星では2015年9月時点で世界最高速となる。

同グループは,超小型衛星からの348Mb/sトの通信実験に成功しているが,今回の成果はその通信速度を単に約1.5倍に増加させただけではなく,周波数利用効率が地球観測衛星としては世界最高の64APSK方式を軌道上実証でき,限られた無線周波数帯域の中で地球観測衛星のデータ伝送能力を高めた意義があるとしている。

近年,100kg程度の小型衛星を多数機打ち上げて,準リアルタイムの地球撮像ミッションを行なう構想が,IT企業等から提案されている。大量の観測データの伝送のために無線周波数帯域の不足がおきることが予想されるが,限られた周波数帯域を最大限有効に使用することを可能にするこの技術は,今後の新しい地球観測ミッションの高速データ伝送に貢献できると期待する。

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