東大ら,世界最短波長の原子準位レーザーを実現

東京大学,電気通信大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センター,大阪大学,京都大学の研究グループは,世界最先端のX線自由電子レーザー施設「SACLA」の技術を利用して,通常の電気配線などに使われるような銅箔が,理想的なX線レーザー光を生成することを世界で初めて見出した(ニュースリリース)。このレーザーは,硬X線領域で初めて実現された,世界最短波長の原子準位レーザー。

レーザーの発生方式には大きく分け,原子や分子にエネルギー準位差を使う方法(原子・分子準位レーザー)と,真空中の自由電子を使う方法(自由電子レーザー)の二通りがある。前者の方式は,可視~近赤外域で多く用いられるが,X線を含む短波長領域への応用は困難だった。

一方,後者は,原理的に波長の制約がなく,最近の技術開発によって,SACLAをはじめとするX線自由電子レーザー(XFEL)が実現し,大きな成果を挙げている。しかし,原子準位レーザーは絶対波長の決定や物質との強い共鳴などの光特性をもつため,依然として短波長領域での実現が強く期待されていた。

X線領域の原子準位レーザーを実現するためには,原子を取り巻く電子のうち,最も原子核に近い電子を効率的に取り除く必要がある。研究グループは,X線自由電子レーザー施設「SACLA」の「2段集光光学システム」を使って,この特異な状態をつくり出すことに成功した。

具体的には,「SACLA」からのX線を2段集光により100nm程度に集光し,1平方センチメートル当たり1019ワット(W)というこれまでの SPring-8などのX線よりも10桁以上強い強度のX線を生成した。このX線を,厚さ20μm銅箔に照射し,銅箔が発光するX線 (Kα線) の特性を計測した。

入射強度が,1平方センチメートル当たり2×1019 Wを超えたところから,指数関数的にKα線の強度が増大することを観測した。さらに,この増幅が起きている場所にSACLAからの2本目のX線を入射し発光スペクトルを計測したところ,1.7eV という狭いスペクトル幅において選択的にX線の強度が増大していることがわかった。

この原子準位レーザーのもつ波長1.5オングストロームは,従来の1/10以下という極めて小さい値であり,世界で初めて硬X線領域の原子準位レーザーを実現したことが確認された。

この過程には,光で原子を制御することが可能な強い誘導放出を用いる。これにより,自然界が決める原子内のエネルギーの流れのルールすら変更可能であることを,X線の領域で初めて観測した。

今回の研究では,原子から理想的なX線レーザーを発生させることに成功した。このスペクトルを詳しく調べることによって, 原子準位レーザーの特異な振る舞いの解明が進むと期待されるという。

さらに今後,さまざまな原子を使って,波長が正確に決まったX線レーザーを発振させることができる。このレーザーの媒質のサイズは50nm,直径で10µmの長さしか必要としない。さまざまな材料がX線レーザーとして利用可能になると期待される。

将来は,これまでみつかった可飽和吸収体や光導波路効果などを併用して,集積化されたデバイスから所望するX線を取り出せる時代が来ると研究グループはしている。

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