広島大ら,液体ビスマス中の音響モードの励起エネルギーの分散を検証

広島大学,熊本大学,慶應義塾大学,高輝度光科学研究センター,理化学研究所らの研究グループは,理論的に予言されていた液体ビスマス中のパイエルス歪と呼ばれる異方的な結合の実証に成功した(ニュースリリース)。

安定な元素の中で最も原子番号の大きいビスマスは,各原子が3本の短い結合と3本の長い結合で結ばれた歪んだ立方構造をとる半金属。これは,ビスマスではp軌道を3個の価電子が占めているため,直線的に並んだ原子が対を形成した方が電子エネルギーが得になる,いわゆるパイエルス歪が形成されることによる。

パイエルス歪が実現しているなら普通とは異なる原子の集団運動が観測されるはずであるという期待から,液体ビスマスの音響モードは非弾性中性子散乱で既に調べられていたが,一見矛盾する2つの実験結果の報告があるものの,2つの矛盾を検証するための実験的・理論的研究は進んでいなかった。

2010年,第1原理分子動力学シミュレーションによって,パイエルス歪を考慮すれば2つの実験結果を矛盾なく説明できることが予言され,今回の研究によってその予言がSPring-8のBL35XUの高分解能非弾性X線散乱実験を行なうことで初めて実証された。

この手法では,入射X線のエネルギーが音響モードのエネルギーに比べて極めて大きいため,運動量の小さな領域で広い範囲の励起エネルギーを測定できる。

これにより,液体ビスマスの音響モードを表す非弾性散乱ピークの振る舞いが第一原理分子動力学シミュレーションの予言と一致することを証明し,1980年代に行われた非弾性中性子散乱実験では,運動量の小さな領域では限られた範囲の励起エネルギーしか測定できなかったことが,矛盾する結果を導いた原因であることが明らかになった。

この研究によって原子間にはたらく力を制御することでナノ構造をデザインできることが明らかとなった。また今回の発見は新物質創成やナノテクノロジー分野の発展に大きく貢献できることが期待されるとしている。

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