JST戦略的創造研究推進事業において,京都大学の研究グループは,有機薄膜太陽電池の一種である高分子太陽電池に高濃度に導入できる近赤外色素を開発し,変換効率をおよそ3割(3.8→4.8%)向上させることに成功した(ニュースリリース)。
高分子太陽電池は,印刷技術による製膜が可能なため従来の太陽電池に比べ,はるかに安価に大量生産が可能になると期待されている。現在,高分子太陽電池の変換効率は,アモルファスシリコン太陽電池に匹敵する10%を超えるようになった。これは電子ドナーである高分子の吸収帯域を太陽光の光子数が多い長波長側へシフトさせることで実現されている。
しかし,有機材料が吸収できる波長幅は200nm程度なので,400nmから1000nm以上にわたる太陽光スペクトルを捕集するには,電子ドナーである高分子と電子アクセプターであるフラーレンの2種類の材料だけでは限界がある。そこで,近赤外域に吸収帯を持つ色素を第三成分として導入した三元ブレンド高分子太陽電池が同大によって提案され,二元ブレンド高分子太陽電池の限界効率を凌駕するアプローチとして活発に研究されている。
実際,理論モデルでは三元ブレンド高分子太陽電池は二元ブレンド高分子太陽電池の限界効率を超えることが示されているが,色素の導入量を増加させることが課題であることも同時に指摘されていた。現状では,色素の導入量は重量比で数%程度が最適であることが多く,変換効率の向上も限定的だった。
今回,高分子太陽電池への近赤外色素の導入量を大幅に向上させるため,新たな色素を開発した。これまでの研究では,色素に導入する軸配位子の種類を変えることで表面エネルギーの制御を行なってきたが,分子平面の上下方向に導入する2つの軸配位子は同じものを用いていた。
しかし,このようなホモ構造の色素では,高濃度で導入すると界面以外のドメインにも散在するようになり,素子特性はかえって低下するという問題があった。
そこで,せっけんに用いる分子が水に親和性を示す親水基と油に親和性を示す疎水基を併せ持つヘテロ構造を持っていることに着目し,ドナー高分子に親和性を示すヘキシル基とフラーレンに親和性を示すベンジル基を同時に軸配位子として導入したヘテロ構造の近赤外色素(SiPcBz6)を新たに開発した。
P3HTに親和性のあるヘキシル基とフラーレンに親和性のあるベンジル基を軸配位子として導入したヘテロ構造の色素(SiPcBz6)では,最適導入量は重量比15%にまで増加し,二元ブレンド素子と比較すると電流はおよそ3割増加した。その結果,変換効率も二元ブレンド素子と比較しておよそ3割向上させることに成功した。
このようなヘテロ構造の色素を高分子太陽電池に導入した例はこれまでになく,二元ブレンド素子に対する三元ブレンド高分子太陽電池の変換効率の向上率は世界最高となっている。
今回の研究成果により,二元ブレンド太陽電池の限界効率を打破するために解決すべき課題が1つ解決された。理論予測に基づくと,適切なドナー高分子とアクセプターフラーレンの組み合わせに対して,ヘテロ構造を持つ近赤外色素を高濃度で導入することにより,二元ブレンド太陽電池の限界効率を2割ほど凌駕する三元ブレンド高分子太陽電池が実現できると期待されるという。
吸収帯域の異なる色素を同時に導入した多元ブレンドへと拡張することによりさらなる効率の向上が見込まれ,最終的には実用化の目安である変換効率15%を超える素子をシンプルな単セル構造素子にて実現することに貢献すると期待されるとしている。
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