東北大,結晶化ガラスで電気光学効果の発現に成功

東北大学の研究グループは,熱処理した酸化物ガラスから得られる多結晶体セラミックス(結晶化ガラス)において,スイッチングや変調など,光の自在な操作を可能とする「ポッケルス効果」(圧電体や強誘電体など,反転対称性が欠如した構造を有する結晶に固有の光学特性であり,外部電圧の印加により屈折率が変化する電気光学効果の一種)の発現に成功した(ニュースリリース)。

情報通信システムに用いられる光スイッチや光変調器などの光制御デバイスの動作原理として,電気光学効果の一種であるポッケルス効果などが活用されるが,これらは一般に,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの単結晶材料が用いられる。

一方,低損失で光を伝送する光ファイバーはガラス材料から作製されており,主な原料は二酸化ケイ素(シリカ,SiO2)となっている。しかし,シリカガラスはガラスを特徴付ける不規則でランダムな構造ゆえに,光学単結晶に固有のポッケルス効果を持ち合わせていない。

現在主流となっている光学単結晶は育成に時間を要しかつ高コストであることから,もしガラスの成形性・大規模生産性と単結晶の光波制御性を併せ持つこれまでにはない新しい材料が実現すれば,現行のファイバーネットワークとの親和性の高い,安価かつ量産性に優れた光波制御デバイスの創製が可能となる。

研究グループでは,長さ0.5mmの単結晶ドメイン(幅:約10μm)の集合体として緻密かつ高い配向性を示す組織構造から成る“完全表面結晶化ガラス”の創製に成功した。前駆体となるガラスは,ポッケルス効果を有するフレスノイト型Sr2TiSi2O8結晶に加えて,ガラス形成に必要なSiO2を過剰添加した組成によって得られる。

それを熱処理することで結晶化ガラスが創製されるが,試料全体を機能材料とするために,光機能性に寄与しない過剰成分であるSiO2を,単結晶ドメイン中にナノ粒子化して取り込むナノ結晶化テクノロジーがこの材料には適用されている。さらに,結晶とガラスの間で屈折率が整合するように調整することで境界面の光散乱が最小となるようにデザインされている。

現行のニオブ酸リチウムによる光スイッチでは,この光学結晶を電極で挟み込み,外部から電圧を印加することでポッケルス効果を介した屈折率変化により信号光強度・位相を変化させる。

この研究においても,得られた完全表面結晶化ガラスを切削加工し,試料上下に電極を固着することで基本的なポッケルス効果型デバイスを構築した。結晶化試料領域に信号光であるレーザー光を入射し,電圧(三角波)を印加した結果,明瞭な信号強度の変化を観測することに成功した。

また光スイッチの性能を表す指標の一つであるポッケルス定数は r31=2.7pm/V,r33=2.3 pm/V と見積もられ,通常の単結晶材料と比較して信号光の偏光依存性が著しく小さいことが明らかとなった。これは,この結晶化ガラスが持つ結晶ではありえない特異な分極構造に由来しており,実用的にも偏光方向に依存しない等方的な光制御が可能であることを意味している。

結晶材料にはないこの特徴は,偏光方向の変動が避けられない円対称性のファイバー型デバイスを構築する上で極めて有利な材料特性であるとしている。このように,多結晶セラミックス材料である結晶化ガラスにおいて,高度な光信号処理が可能となることを実証した。

通常のセラミックスなどの多結晶材料は,材料全体としての結晶方位はランダムであり,さらに結晶界面や欠陥(空孔)の存在により光透過性が低いなど,光波制御デバイスへの応用は極めて限定的で,安価・量産型ではあるが活用が困難だった。

しかしながら,今回の成果である結晶化ガラスは,多結晶材料でありながらLiNbO3単結晶の光導波路デバイスに匹敵する実用レベルの光透過性を有し,かつシリカをベースとするガラス材料を前駆体とすることから,ファイバーや薄膜,大型バルク素子など,加工・成形性がきわめて容易で,さらに安価かつ大量生産性に優れるという,従来の結晶デバイスの限界を打破する全く新しい光波制御デバイスの開発を促進することが期待されるとしている。

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