東大,レンジとイオン液体でグラフェンを大量生産

東京大学の研究グループは,新しく合成開発したイオン液体とマイクロ波の組み合わせを用いることで,30分という短時間に天然グラファイト(グラフェンの積層体)を1層,1層のグラフェンへと破格に高効率(単層グラフェン選択性:95%)に剥がす手法を開拓した(ニュースリリース)。

これまでグラフェンを作り出す手法はさまざま提案されてきたが,(1)収率,(2)単層グラフェンの選択性,(3)純度,(4)処理時間のすべてを満足させる方法は存在しなかった。

2003年に研究グループはイミダゾリウムを主骨格に有する市販のイオン液体が非常に高い親和性をカーボンナノチューブ(CNT)のπ表面に対して示し,束になったCNTを一本一本にバラけさせることができることを発見した。しかしながら,グラファイトは面と面とで相互作用しているため,著しくお互いへの拘束が強く,このイオン液体をもってしてもグラファイト中のグラフェンを剥がしだすことは難しかった。

そこで研究グループは,有機合成化学を用いてイオン液体となる分子に工夫を加える事でこの剥離効率を向上することを目指した。具体的には従来のイオン液体と比べてより強くグラフェン/グラファイトのπ 平面とイオン液体分子が相互作用をするイオン液体分子を用いれば剥離の効率が向上するのではないかと考えた。

研究グループは1分子内に2つのイミダゾリウム部位を持つイオン液体分子IL2PF6を設計・合成した。この分子は生体・ウイルスなどで見られる多点相互作用の効果から相互作用の向上が期待できるもの。

このイオン液体に原料であるグラファイトを25 mg/mL の濃度で懸濁させ,CEM社のマイクロ波合成装置でマイクロ波を30分間照射した。このマイクロ波照射後,懸濁液からイオン液体を洗い流すことで黒色の粉末固体を得た。

この粉末を各種分析評価したところ(1)収率93%(2)単層選択性95%,(3)純度は原料のグラファイトとほぼ変わらないことが明らかとなった。この手法は(4)30 分という短時間で作られたものであることも考慮にいれると上述した条件(1)―(4)をすべて満たす手法であることが判明した。

このイオン液体IL2PF6は今までの液相分散媒よりも破格に大量のグラフェン(100 mg/mL)を分散させることが可能であることが,さらなる測定の結果明らかになった。得られたグラフェンを再度IL2PF6に混合すると容易に再分散させることができ,ある濃度を超えるとゲル化することが明らかになった。

さらに混合するグラフェン量を増加させることにより100 mg/mLと非常に高濃度な状態まで,そのゲルとしての強度を増強することに寄与した。構造欠陥のないグラフェンによる物理ゲルはこの例が初めてであり,このような高濃度グラフェンゲルは様々な電子材料への応用が期待できるという。

この珍しい挙動を示すグラフェンゲルが発見されたことの大きな要因としては,高品質グラフェンを大量に得ることに成功したことが挙げられる。この研究はイオン液体とマイクロ波という組み合わせがグラフェンの大量生産に大きな指針になることを示唆する。

研究グループは,折り曲げ可能なディスプレーやウエアラブルデバイスなどの次世代デバイスのコア材料として期待されるグラフェンを研究室の中の技術に留めず,広く社会に使える技術として拡散させる基盤づくりをすることは現在の科学技術における主要な命題の一つだとして,この研究がその命題に対して大きな指針を与えると期待している。

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