KAST,平成26年度の研究成果を報告

公益財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST)は7月29日,平成26年度に得られた各研究室の成果の報告,ならびに平成27年度より新たに開始した事業等を紹介するため,「平成27年度KAST研究報告会」を開催した。

KASTの研究分野はバイオから燃料電池まで多岐に渡るが,この日は光関連技術として「透明機能材料グループ」「光触媒グループ(材料班)」「有機系太陽電池評価プロジェクト」の3つからの報告があった。

■TNO透明導電膜

その他の透明導電膜

「透明機能材料グループ」からは,グループリーダーの長谷川哲也氏により,ITO代替材料による透明導電体の開発状況が報告された。KASTではかつてニオブを添加したアナターゼ型二酸化チタン薄膜(Ti1-xNbxO2:TNO)が,ITOに匹敵する透明導電性を示すことを見出しているが,実用化にあたっては,低抵抗膜の再現性に問題があった。

これは,低抵抗TNO膜の作製にはアモルファス薄膜を還元雰囲気下でアニールして結晶化する方法が有効だが,抵抗値が不安定なのはこのときの酸素雰囲気に敏感なことが原因となっている。そこで高抵抗膜を詳細に調べたところ,アニールの際に密度の違いからクラックが生じていることが分かった。

アニールには,結晶化と過剰に含まれる酸素を取り除いて低抵抗化する2つの役割がある。そこで研究グループは,まずクラックの生じにくい低温で結晶化させ,その後,高温で還元アニールして過剰酸素を除去する2段階アニール法を新たに考案した。これにより,クラックを生じることなく,再現性の高い低抵抗TNO膜を得ることが可能となった。

つまりTNO膜は酸素雰囲気中でアニールすると,過剰酸素が導入されて絶縁化する。研究グループではこれを利用して絶縁層を作成するため,TNO膜をUV-オゾン処理をしたところ表面のみが絶縁化した。このTNO膜を応用して有機薄膜太陽電池を試作したところ,電子輸送層を形成しなくても太陽電池として機能した。これは表面絶縁層が電子輸送層として機能しているものと考えられるという。

実際に電子輸送層を除いた太陽電池を試作し,このTNO膜を透明電極として用いたところ,ITO/電子輸送層を用いた通常の太陽電池と同等の性能を示すことを確認した。これはTNO表面の絶縁層が薄く均一であることを意味しているという。電子輸送層は薄いほうが有利なため,今後デバイス特性の大幅な向上が見込めるとしている。

■ホウ素ドープダイヤモンド電極

開発したBDD電極

「光触媒グループ 材料グループ」は,光触媒市場における製品化の進捗や市場規模などについて,グループリーダーで東京理科大学学長の藤嶋昭氏が紹介した。現在,外装材と空気清浄器への応用が半々となっている光触媒産業において,今後は医療への応用と研究中の「導光管」による外光を室内に採りいれる技術が新たな起爆剤になるとの見方を示した。

平成26年度の成果は,サブリーダーの落合剛氏がユーヴィックスと共同開発したTMiP,住友電気工業と共同開発した光触媒担持孔質シリカガラス,そして歯科用に開発を進めているダイヤモンドにホウ素をドープした導電性ダイヤモンド(Boron-Doped Diamond:BDD)電極について発表を行なった。

TMiPとは光触媒を担持したチタンメッシュフィルタで,これとプラズマ処理技術と組み合わせた空気清浄機を開発した。装置はコイル型の内部電極と外部電極との間での放電により大気圧プラズマを発生させ,そこからの紫外線をTMiPが受けて光触媒反応とプラズマ処理が相乗効果を発揮する。

この空気清浄機を模擬喫煙空間で試験を行なったところ,12,000本分の煙草を処理した後も88%±1%というTVOCs(全揮発性有機化合物)除去率を確認した。ただし,実際の喫煙コーナーでも実験したところ,試験より倍近い速さでTVOCsの除去率が低下した。これは試験には無かった反応生成物や温湿度変化が起因するものと考えられるため,今後はその対応のほか,これまで殆どできなかった一酸化炭素の除去についても改良を行なう。

光触媒担持孔質シリカガラスは,一端を封じた光触媒担持孔質シリカガラス管で,小型紫外線光源と組み合わせることで,災害時などに飲料水を得るストロー式水浄化機としての実用化を目指している。

今回,酸化チタン前駆体(チタンテトライソプロポキシド:TTIP)を多孔質シリカガラスに含浸させ,焼成するという簡便な手法で光触媒担持孔質シリカガラス管の作製に成功した。これを用いて水および空気の浄化実験を行なったところ,ワンパス条件でも高い除去率を示し,インライン型排気ガス浄化装置としても有用であることが分かった。

ホウ素を高濃度でドープしたダイヤモンド電極(BDD電極)は,優れた電気化学特性を持っているため新規電極材料として期待されている。また,水を電解して効率的にオゾンなどの酸化剤を生成し,殺菌等に用いることができるが,硬くて脆く,さらに高価という弱点があった。

研究グループは粒径500nm未満の研磨用ダイヤモンド粉末をBDDコーティングし,高分子材料を混ぜたBDD粉末含有塗料を作成。これを基材に塗布してフレキシブルな電極とした。さらに,ここにイオン交換膜を介して対極の白金リボンを巻きつけ,フレキシブルで安価な棒状のユニットを作成した。

このユニットでメチレンブルーの脱色に成功したほか,歯根治療を想定して牛歯の根管中の殺菌効果を確かめたところ,従来法である1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液処理と同等の殺菌効果を示した。BDD電極は従来法に比べピンポイントでオゾンを発生でき,残留性の少ない殺菌方法として今後も期待できるとしている。

■有機太陽電池の計測技術/標準化
有機系太陽電池はSi系太陽電池に比べて光応答性が緩慢なため,従来の性能評価法では正確な測定が困難で標準化された国際規格も存在していない。「有機系太陽電池評価プロジェクト」では,内閣府のFIRSTプログラムで得た知見をもとに,あらゆる太陽電池の計測・性能評価の研究開発に取り組んでおり,グループリーダーの高木克彦氏が進捗を報告した。

有機太陽電池の計測の難しさは,照射日光と出力の関係が非線形的な特性にある。KASTでも測定条件の最適化から評価アルゴリズムの開発を行なっているが,最近では変換効率が高いペロブスカイト太陽電池の研究が盛んになっている。ペロブスカイト太陽電池も測定条件によって挙動が著しく変化するため,ある意味有機太陽電池よりも安定した測定が困難だという。

ペロブスカイト太陽電池は酸素,水分などによって特性が変化すると言われているため,KASTが開発する「環境制御型密封測定ケース」を用いた計測が有効ではないかとしている。また,光を照射している間に発電性能が変動するセルもあることから,現在行なっている電流-電圧測定(I-V測定)に代わる方法として,クロノアンペロメトリーにより定電圧での電流変化を解析し,変換効率を推定するという方法も併せて検討するとしている。

同時にKASTでは,これまで装備してきた太陽電池に関連する設備や装置をさらに拡充し,太陽電池を中心として光学関係の以来分析を業務とする評価機能センターとしての充実を図っていくとしている。