九大ら,自己組織化により有機色素を開発

九州大学と熊本大学は共同で,分子の自己組織化を駆使する事により,「パズルの要領で分子を並べ,新しい機能性色素を作る技術の開発」に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

光エネルギーや電気エネルギーを効率よく吸収し、新たな光エネルギー(紫外線、可視光線,白色光,近赤外光など)へと変換することのできる有機色素は,機能性有機色素と呼ばれ,照明材料・表示材料・有機EL・農園芸用波長変換資材・バイオイメージング材料などの最先端技術で利用されている。

そのような機能性有機色素を作る方法として,近年では,コンピュータを用いた性質の予測(計算化学技術)や,優れた有機合成技術が駆使されている。しかし,機能性有機色素を粉末,薄膜,フィルムなどの固体中で使用する場合,色素分子同士が無作為に凝集・会合することにより,発光色・発光強度などの色素本来の性質が損なわれることが大きな問題点となっている。

そのため研究では,色素分子をナノメートルスケールで整然と並べる技術(分子の自己組織化)を用いる事により,複数種の分子をパズルの要領で並べる技術を開発し,新しい機能性色素を作り出す研究に取り組んだ。

一般に色素分子を思い通りに並べる事が難しい原因は,色素分子の形が長方形,正方形,球形のように異方性を持っているため。そのため2種類,3種類以上の分子を均一に混ぜ合わせ,整然と並べることは極めて困難だとされてきた。

研究に用いた分子群は,ピリジル基を含むナフタレンジイミド誘導体(NDI),トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFB),芳香族分子溶媒(Guest)。これらの3成分は単に混ぜ合わせるだけで自己組織化し,NDI:TPFB:Guestが1:2:2の組成で,宝石のような結晶を形成した。

また構造解析により,NDIとTPFBが構成する複合体(青)が形成する空間の中に,Guestを2分子取り込んだ構造であることを明らかにした。

さらに,異なる7種類のGuestを用いた場合でも,同様の組成と構造で結晶を形成した。得られた結晶に紫外光(330-380nm)を照射すると,取り込まれたGuestの種類に応じて青~橙色(450-600nm)に発光し,新しい機能性色素として機能することが分かった。

発光のメカニズムは,NDIとGuest間で働く電荷移動相互作用に起因するもの。例えばメタフルオロトルエンをGuestとして取り込んだ結晶では30%を超える高い発光量子効率を示すが,Guestを除去した結晶では,ほとんど発光を示さなかった。

この研究成果は,分子の自己組織化を用いて,単に混ぜ合わせるだけで新しい機能性色素を作る方法論の開拓であり,既存の有機分子の組み合わせにより乗算的に新規有機材料が得られる事を示したもの。重金属を含まず,煩雑な有機合成も必要としない為,省エネルギーかつ低い環境負荷が見込まれる工業技術への応用が期待されるという。

今回は,青色~橙色(450-600nm)の発光色を達成しているため,青色と黄色の発光色の足し合わせによる白色発光材料の創製の達成が期待される。また同様に発光色として,可視光だけでなく近赤外光に発光する材料への展開も見込まれるとしている。

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