理研ら,外的刺激で近赤外と青色を可逆的に発する蛍光色素を開発

理化学研究所(理研),岡山大学,広島大学の研究グループは,固体状態(結晶状態)で近赤外と青色の異なる2つの蛍光波長をもつ有機蛍光色素「cis-ABPX01」を開発し,結晶をすり潰すなどの外的刺激により,近赤外と青色の蛍光波長を可逆的に切り替えることに成功した(ニュースリリース)。

有機色素には効率良く光を吸収,放出する性質のものがあり,生物学・医学・工学などさまざまな分野で活用されている。これまで多くの有機色素分子が人工的に合成され,現在も新たな光物性や機能性を見いだす研究が世界中で行なわれている。

研究グループは,分子が凝集すると発光する新しいタイプの有機蛍光色素「アミノベンゾピラノキサンテン系色素(ABPX)」を2010年に発表し,この色素を利用した金属イオンセンサを開発するなど,応用への展開を進めてきた。

今回,ABPXの誘導体から,結晶状態で近赤外と青色の異なる2つの蛍光を示す「cis-ABPX01」の開発に成功した。この蛍光色の違いは結晶構造中のcis-ABPX01分子の配列と関係しており,近赤外蛍光を示すcis-ABPX01の結晶をすり潰して分子の並び方を崩すと,青色の発光が増大する。

一方,分子の並び方がバラバラになったcis-ABPX01の粉末に有機溶媒を含むガスを暴露すると,分子が規則的に再配列して近赤外の発光が回復する。

この性質を利用することで,材料に加わる力や摩耗の程度を簡易にモニタリングしたり,生体組織や細胞に加わる力をイメージングするバイオセンサなどのカラーセンシング材料への応用が期待できる。

研究成果は,米国化学会(ACS)誌のオンライン版に掲載された。また,ACSが全世界の化学論文の中からアイデアが革新的な研究成果を毎週選出する「Noteworthy Chemistry」にも選ばれた。なお9月11日にJSTがJST東京本部別館1Fホール(東京・市ケ谷)で開催する新技術説明会で発表する予定。

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