ATR,霊長類の二次視覚野の理論モデルを構築

JST戦略的創造研究推進事業において,国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究グループは,霊長類の二次視覚野の性質を説明できる理論モデルを構築することに成功した(ニュースリリース)。

霊長類の視覚系は,目(網膜)から情報を受けたを受けた後、脳の視覚皮質と呼ばれる中枢で高度な情報処理を行ない,日常生活の認知行動に活用している。

霊長類の脳の視覚系(目から入る映像の情報を処理する部位)には数多くの視覚野があり,そのうち一次視覚野はこれまでの研究で理解が大きく進んでいたものの,二次視覚野以降は,複雑さゆえに理解が遅れていた。

これまでの研究で,一次視覚野と二次視覚野は,物の形のおおまかな処理を行なうことが明らかにされている。二次視覚野は,一次視覚野から単純な処理結果(局所的な輪郭の検出など)を受け取り,その情報をさらに処理し,その結果を複雑な特徴に特化した高次視覚野などに送る重要な役割を果たしているとされているが,その正確な役割については,専門家の間でも意見が異なっている。

研究グループは,一次視覚野での情報処理内容を理解することに大きく貢献した「スパース符号化理論」に着目した。この理論は,自然界から脳に入る情報を,脳内でなるべく少数の神経細胞の活動によって表現するというもの。

この理論を拡張することで,一次視覚野のみならず,二次視覚野の情報処理についても理解を進めることができる可能性を追求した。

まず霊長類の二次視覚野の性質を説明するための新たな理論モデルを構築し,「階層的スパース符号化モデル」と名付けた。

この理論モデルの神経細胞と過去に報告されたマカクザルの実際の神経細胞の性質を比較することで,二次視覚野は自然界の画像の性質を統計的に分析し,学習することにより,輪郭や角を検出する複雑な情報処理能力を獲得している可能性が明らかになった。

この成果は,非常に複雑な情報処理を行なう脳の視覚系の全容理解へ向けて,重要なステップになるとともに,この理論を工学的に応用することによって,視覚系を模した人工知能技術が進歩することも期待できるという。

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