光産業創成大学院大学と浜松ホトニクスは,セラミック材料のジルコニアに高強度レーザを照射し,表面から深さ約100μmの領域に,微細な多結晶粒を多層に形成することに成功した(ニュースリリース)。
研究では,ピーク強度1平方センチメートルあたり11.5京ワット(1.15×1017W/cm2)の高強度レーザビーム(エネルギー 0.8ジュール,パルス幅110フェムト秒)を二つに分割し,厚さ0.5mmの単結晶イットリア安定化ジルコニア(s-YSZ)を両側から挟むようにレーザを1パルス照射した。
その結果,単結晶材料s-YSZ表面のレーザ照射した部分の深さ方向約100μmの領域に,結晶方位と結晶粒の大きさが多層に変化し,数十nmから数μmの大きさの多結晶を多層形成した。
セラミックス材料に高密度格子欠陥を形成することが確認されたことにより,微細構造制御の可能性を示した。これは,レーザ衝撃圧縮技術を用いたセラミックス系材料の改質技術における新たな発見となるもの。
セラミックス材料は,あらかじめ材料内部に欠陥(高密度格子欠陥)や微細粒子(準安定高密度構造)を成形することにより,亀裂の伸展を抑制し,靱性と熱特性を高めることで,精密機械加工部品などに用いられている。
今回の研究で形成された結晶の向きがそれぞれ異なる結晶間の空間は,従来方法による高密度格子欠陥(マイクロクラック)と同じ役割を果たし,多結晶化により靱性と熱特性を高める可能性があると考えられるという。
この研究成果が実用化されれば,従来のように成形時に事前に処理することなく,成形されたセラミックス部品の任意の必要な部分にレーザ照射するだけで処理が可能になる。これは,セラミックス材料のさらなる産業応用の可能性を示したものといえる。
高強度フェムト秒レーザ衝撃圧縮技術は,高密度格子欠陥や高密度準安定構造を形成する現象が見られることから,今後その機構解析が進むことにより,新しい材料工学の展開につながることが期待される。
また,今後,さらに高強度短パルスレーザーを開発すれば,さらなる新しい知見が得られる可能性もある。さらに,これまでフェムト秒レーザは非熱加工に有用とされてきたが,高強度化することで,材料表面で発生するプラズマの熱波による新しいレーザ加工の応用の可能性も出てきたとしている。
関連記事「東工大ら,亀裂進展がセラミックスを強靭にすることを発見」「ノリタケカンパニーリミテド,-40~250℃で1000回のサイクルに耐える金属セラミック基板を開発」