理研ら,スキルミオンの構造を制御する新原理を開拓

理化学研究所(理研),日立製作所,ロームらの共同研究グループは,省電力磁気メモリ素子の情報担体などへの応用が期待されるナノサイズの渦状磁気構造体「スキルミオン」の構造が,応力により大きく変化することを実験的に発見し,理論的な検証にも成功した(ニュースリリース)。

スキルミオンは,他の磁気構造体と比べ10万分の1程度の電流密度で駆動できるなど工学的に優れた特性を持つため,次世代の磁気メモリ素子における情報担体としての応用が期待されている。その応用にあたっては,スキルミオンの構造を外場により制御する手法の開拓や,その制御原理の解明が重要となる。

一部の強磁性体では一軸応力によって磁気モーメントの向きが変化する現象が知られており,応力印加は磁気構造を制御するための手段の1つといえる。そこで研究グループは,スキルミオンの構造についても応力が与える効果を調べた。スキルミオンの構造に対する応力の効果は,これまで静水圧による等方的な圧力印加のみが知られており,一方向のみに働く応力が与える影響については調べられていなかった。

共同研究グループは,スキルミオンが広い温度と磁場の条件下において観測されている鉄とゲルマニウムの化合物(FeGe)を利用し,異方的な応力がスキルミオンの構造に与える影響を観察しようと試みた。

そこで,熱応力を利用することにより,冷却により応力を加えることができる試料を作製し,試料に一軸の引張応力を加えた状態でローレンツ透過型電子顕微鏡法を用いてスキルミオンの構造を観測した。

ローレンツ透過型電子顕微鏡法を用いると,スキルミオンの形状や位置を斑点状のコントラストとして観察することができる。そこで,個々のスキルミオンの形状とスキルミオン結晶の構造を観察し,その構造が応力によってどのように変化するかを調べた。

さらに、共同研究グループは観察されたスキルミオンの構造変化の原因として,本来方向によらない「ジャロシンスキー-守谷相互作用」の強度が,一軸応力の影響によって方向に依存して異なる異方的な状態に変化したためであると考え,その状況に対応する理論モデルを考案し,シミュレーションと解析計算を行なった結果,実験結果をよく再現する結果を得た。

これらの結果から,FeGeにおいては非常に小さい異方的な格子歪(0.3%)が,ジャロシンスキー-守谷相互作用を敏感に変化させ,スキルミオンの構造を大きく変形(20%)させることが明らかになった。

この研究は,スキルミオンの構造に異方的な応力が与える大きな影響を初めて観測したもので,スキルミオンを制御するための外場として応力が有効活用できる可能性を示すもの。

FeGeにおいてスキルミオンやスキルミオン結晶の構造が異方的な応力に対して非常に敏感であり,大きく歪むことが明らかになった。スキルミオンの構造を外場によって制御することに成功した初めての例であり,スキルミオンを制御する手段の1つとしての利用が期待できるとしている。

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