大阪大学,米カリフォルニア大学ロサンゼルス校,独ゲオルク・アウグスト大学らの共同研究グループは,5ミリ秒の時間分解能を有する“その場”X線ナノビーム回折法を開発した(ニュースリリース)。また,この手法を用いてX線誘起化学反応により多結晶中の結晶粒が回転し,結晶格子が変形する様子をその場観察することに成功した。
多くの物質は結晶方位の異なる多くの結晶粒から構成される多結晶体であり,結晶粒および結晶粒界の構造・ダイナミクスが物質の特性と深く関わっていることが知られている。
結晶粒や結晶粒界の構造評価には,一般に透過電子顕微鏡法やX線回折法が用いられている。透過電子顕微鏡法は原子レベルの観察が可能だが,短時間での観察が乏しいという問題があった。
一方,X線回折法は短時間での測定が可能で試料環境を選ばないという点において優れているが,小さなものを観ることができないため,多結晶体ではいくつかの結晶粒の足しあわされた構造情報しか得られないという問題があった。
今回の研究では,従来のX線回折法の問題点を解決するために,ドイツの放射光施設PETRAⅢにおいてKB全反射集光鏡を用いて高強度なX線ナノビームを形成し,最先端のX線検出器(ピクセルアレイ検出器PILATUS 1M or 6M)を駆使することで,一つの結晶粒からのX線回折強度パターンを5ミリ秒の間隔で取得可能なX線ナノビーム回折法を開発した。
この手法により,コダック社の「リナグラフ」という感光紙を測定したところ,X線照射によって誘起される化学反応によって,臭化銀の結晶粒が一秒間に3.25ラジアン回転し,その結晶格子が0.5オングストローム変形する様子を世界で初めて観測した。
従来のX線回折法では観測できなかった多結晶中の一つの結晶粒の構造・ダイナミクスが評価可能となったことで,X線回折法による構造可視化研究の新境地開拓が期待される。例えば,触媒材料やエネルギー変換素子等の多結晶機能性材料に応用することで,化学反応中の構造・ダイナミクスを理解し,新たな材料開発に指針を与えることができるとしている。
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