名大,生きたまま受精卵の分裂を観察

JST戦略的創造研究推進事業において,名古屋大学の研究グループは,植物の受精卵が分裂し発生する様子を生きたままリアルタイムで観察(ライブイメージング)できるシステムを開発した(ニュースリリース)。

被子植物の受精卵は母体組織であるめしべの奥深くに埋め込まれているので,受精卵の分裂過程を生きたまま観察することができない。このため,植物胚発生研究の歴史は長いにもかかわらず,実際にどのように細胞が分裂し,胚発生が進行しているのか,詳細は明らかではなかった。

研究グループは,胚珠培養技術と何層もの細胞により厚く覆われた胚珠の中にある胚を高感度に撮影できる顕微鏡システムを組み合わせることによって,受精卵から後期胚までを通じて胚発生のライブイメージングに初めて成功した。

このライブイメージングによって個々の細胞の分裂周期を解析し,シロイヌナズナ初期胚発生の細胞分裂系譜を作製した。これまでシロイヌナズナの初期胚細胞は,それぞれ同じ周期で細胞分裂していると考えられてきたが,ごく初期からそれぞれの細胞特性を獲得していることが分かった。

受精卵の不等分裂により生じた頂端細胞と基部細胞はすでに異なる細胞運命を獲得しているが,それらの細胞運命は一度決まってしまったら変わらないのかどうかを明らかにするために,受精卵が分裂した直後の細胞1つのみを顕微鏡下でレーザによって破壊して解析した。

受精卵は厚い胚珠組織に覆われているため,研究グループは組織深部にも照射できるフェムト秒パルスレーザを用いて,受精卵が分裂した直後の頂端細胞を破壊し,3日間に渡り,その後の影響をタイムラプス観察(連続観察)した。

その結果,頂端細胞がダメージを受けると,隣にあるすでに胚柄細胞へと細胞運命が決定した細胞が,失った頂端細胞を補うために新たに頂端細胞へと運命転換が起こることが明らかとなった。

この研究成果は,植物胚発生や細胞運命転換の研究における基盤技術となり,植物の優れた再生能力の仕組みの解明や,育種・培養技術の開発につながると期待されるとしている。

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