京産大ら,理論限界を達成するイマージョン回折格子を実現

京都産業大学,東京大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA),キヤノンなどの研究グループは,赤外線を透過できる半導体材料の一つであるCdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)を材料とし,ナノレベルの超精密切削技術を用いて,あらゆる光学性能において理論限界を達成するイマージョン回折格子を世界で初めて実現した(ニュースリリース)。

次世代の30mクラスの巨大地上望遠鏡や大型・赤外線宇宙望遠鏡においては,赤外線の波長を約50,000色以上に分けることができる「高分散分光観測」という手法が,天文学のあらゆる分野において必須であると考えられている。

例えば,高分散分光観測によって得られたスペクトルには,様々な天体を構成する原子や分子の組成情報が含まれており,宇宙において物質(生命体の元となる有機物質も含む)がどのように形成されてきたかを明らかにすることができる。

ところが,高分散分光観測に必要な「高分散分光装置」は,一般に望遠鏡の口径や波長に比例して非常に巨大になるため,その実現には大きな障壁があった。

イマージョン回折格子は,この困難を解決する新しい光学素子で,屈折率の高い赤外線光学材料(n>2)に回折格子を形成し,その物質の内部形状を回折格子として利用したもの。

光の波長は物質の内部においては屈折率分(典型的には2~4倍)だけ波長が短くなるため,小型であっても大きな光路差を得ることが可能になり,古典的な回折格子と同じ波長分解能を得ることができるというのがその原理。

イマージョン回折格子を用いることで,赤外線高分散分光器の飛躍的な縮小化が可能になります。赤外線波長領域において実用的なイマージョン回折格子を実現する一般的な手法は,これまで確立されていなかった。

今回,研究グループは,CdZnTeを用いて,世界に先駆けて超精密切削加工による赤外線用のイマージョン回折格子を実現した。 製作したCdZnTeイマージョン回折格子をさらに,独自開発した精密測定ユニットを用いて評価したところ,赤外線波長において,回折効率が81%以上,波長分解能が250,000以上という理論的に予想される限界性能が達成されていることを確認した。

イマージョン回折格子が実現したことは,次世代望遠鏡用の赤外線高分散分光器の実現性に向けて道をつけたことになり,天文学が到達できる知の領域を格段に広げたことを意味する。

既に,京都産業大学の神山天文台・赤外線高分散分光ラボでは,今回開発したイマージョン回折格子を用いた赤外線高分散分光器の開発研究をスタートしている。この観測装置は,次世代の地上巨大望遠鏡用,大型宇宙望遠鏡用の赤外線高分散分光器の試験機の位置づけになる。

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