東京大学,東京理科大学,東京工業大学,名古屋工業大学,豊田工業大学らの研究グループは,銅酸化物高温超伝導体では,通常の超伝導体とは異なり,抵抗ゼロの超伝導温度よりも遥か高温から超伝導電子が生成されていることを発見した(ニュースリリース)。
超伝導の研究には,物質内電子を直接観察すればよい。この単純明快な考えに基づく実験手法が光電子分光法で,物質内電子を光で外にはじき飛ばして観察する。この手法は,波としてうねうねと伝搬する光を粒の集合体として記述して見せることで,光の概念を覆したアインシュタインの発想に基づいている。
研究グループは,先端的なレーザ技術と分光技術を組み合わせて実現した高性能光電子分光装置を用いて,従来とは一線を画すエネルギー分解能で超伝導電子を観測した。
銅酸化物高温超伝導体の超伝導電子は,ある方向に節を持つd波として振る舞うことが知られている。これは,一般的な超伝導体がもつ等方的で節の無いs波超伝導電子との大きな違いとなる。
このように,対称性には大きな特徴を持つ銅酸化物高温超伝導体だが,超伝導電子の形成から超伝導状態へ至るまでの温度変化に関して特異性は無いものとされていた。つまり,一般的な超伝導と同じく,超伝導電子の形成と同時に,抵抗ゼロの超伝導に転移すると考えられていた。
研究では,銅酸化物高温超伝導体が持つd波超伝導状態のシンボルとも言える節の温度変化を,精密な光電子分光測定で追跡した。その結果,超伝導温度よりも1.5倍近く高い温度まで持続して存在することを発見した。超伝導電子の形成温度と超伝導転移温度が大きく食い違う物質例はこれまでになく,銅酸化物高温超伝導体の特性といえる。
銅酸化物高温超伝導体は,伝導を担うキャリアを絶縁体に注入することで超伝導を発現するので,金属よりもむしろ絶縁体に近い物質。その物質でなぜ高い超伝導を示すのか,未だ謎が多い。
今回の成果は,絶縁体の瀬戸際で生じる超伝導ならではの性質として,ミクロに生成される超伝導電子が十分な量生成されて初めて超伝導性が発生することを示し,「高い超伝導を生む源」を同定する上での指針となるもの。
また,超伝導の名残が高温超伝導体の超伝導温度よりもさらに高温で発見されたことから研究グループは,超伝導温度の飛躍的向上と,その先にある室温超伝導実現へ向けての,大きな一歩だとしている。
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